夜明けの誓い、あるいは勝利へのカウントダウン
遠く、厚い石壁の向こう側で、一番鶏の鋭い鳴き声が、停滞した地下の空気を切り裂いた。
青黒かった闇の密度が、僅かに薄まり、湿った石床に鉄格子の長い影が、不吉な指先のように伸び始める。
「……行ってください、陛下。夜が明ければ、見つかります」
喉の奥が熱く、せり上がる嗚咽を、私は乾いた唾液と一緒に力ずくで飲み下した。
鉄格子の隙間から差し出している私の手を、彼は、壊れやすい陶器を検品するかのような繊細さで、けれど指の関節が白く浮き上がるほど強固に握りしめている。
「……置いていけるか」
低く、掠れたその聲音には、かつての冷徹な「探花使」としての余裕など微塵もない。
代わりに滲み出しているのは、孤独な頂点に立つ者が初めて手に入れた「安住の地」を失うことへの、原初的な恐怖だった。
「置いていくのではありません。……『待つ』のです」
私は、彼の黄金の瞳を正面から射抜くように見つめ返した。
ここで視線を逸らせば、彼の感情的なコストが膨れ上がり、この脱出作戦は破綻する。
「私がここを出る時は、貴方の勝利の時です。……迎えに来てください。最強の皇帝として」
私の言葉が放たれた瞬間、彼の肩の筋肉が、鋼のような緊張から解放され、僅かに震えた。
瞳の中に滞留していた湿り気が、王としての絶対的な意志へと再結晶していく。
その変化を、私は指先から伝わる拍動の安定によって正確に感知した。
「……ああ。約束する」
彼はそのまま、鉄格子の無機質な冷気の中へ顔を寄せた。
唇が触れるか触れないかの、数ミリの「絶対領域」。
直接の接触はない。
けれど、彼の肺から吐き出された熱い龍脳の吐息が、私の唇を焼き、魂の深部に消えない刻印を刻みつけていく。
「必ず、迎えに来る」
彼は翻り、漆黒の葛のフードを深く被り直した。
地下回廊の奥へと遠ざかる、衣の擦れる乾いた音。
後に残されたのは、急速に冷え込んでいく監獄の空気と、私の手の甲にこびりついた、彼の体温の痛いほどの余韻だけだった。
私は、壁に向き直った。
右手に握りしめた小石――その尖った先端を、石灰質の壁へと突き立てる。
ガリ、ガリ、ガリ……。
耳朶を不快に震わせる硬質な音が、闇の中に響き渡る。
石粉が指に白く付着し、爪の間へと食い込む。
ここに刻むのは、情緒的な感傷ではない。
皇太后という名のボトルネックが、自ら供給不足に耐えきれず自壊するまでの「損益分岐点」を導き出すための、冷徹な勝利の計算式。
あと、四十八時間。
私は、その数字を、自身の網膜の裏側へと、深く、消えないように書き込んだ。
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また明日[19:00]にお会いしましょう。




