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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第3部『御前プレゼン』

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夜明けの誓い、あるいは勝利へのカウントダウン

遠く、厚い石壁の向こう側で、一番鶏(いちばんどり)の鋭い鳴き声が、停滞した地下の空気を切り裂いた。

青黒かった闇の密度が、(わず)かに薄まり、湿った石床に鉄格子の長い影が、不吉な指先のように伸び始める。



「……行ってください、陛下。夜が明ければ、見つかります」



喉の奥が熱く、せり上がる嗚咽(おえつ)を、私は乾いた唾液と一緒に力ずくで飲み下した。

鉄格子の隙間から差し出している私の手を、彼は、壊れやすい陶器を検品するかのような繊細さで、けれど指の関節が白く浮き上がるほど強固に握りしめている。



「……置いていけるか」



低く、掠れたその聲音(しょうね)には、かつての冷徹な「探花使(たんかし)」としての余裕など微塵(みじん)もない。

代わりに(にじ)み出しているのは、孤独な頂点に立つ者が初めて手に入れた「安住の地(アセット)」を失うことへの、原初的な恐怖だった。






「置いていくのではありません。……『待つ』のです」



私は、彼の黄金の瞳を正面から射抜くように見つめ返した。

ここで視線を逸らせば、彼の感情的なコスト(迷い)が膨れ上がり、この脱出作戦は破綻する。



「私がここを出る時は、貴方の勝利の時です。……迎えに来てください。最強の皇帝として」



私の言葉が放たれた瞬間、彼の肩の筋肉が、鋼のような緊張から解放され、僅かに震えた。

瞳の中に滞留していた湿り気が、王としての絶対的な意志へと再結晶していく。

その変化を、私は指先から伝わる拍動の安定によって正確に感知(モニター)した。



「……ああ。約束する」



彼はそのまま、鉄格子の無機質な冷気の中へ顔を寄せた。

唇が触れるか触れないかの、数ミリの「絶対領域」。



直接の接触はない。

けれど、彼の肺から吐き出された熱い龍脳の吐息が、私の唇を焼き、魂の深部に消えない刻印(ログ)を刻みつけていく。






「必ず、迎えに来る」



彼は(ひるがえ)り、漆黒の葛のフードを深く被り直した。

地下回廊の奥へと遠ざかる、衣の擦れる乾いた音。



後に残されたのは、急速に冷え込んでいく監獄の空気と、私の手の甲にこびりついた、彼の体温の痛いほどの余韻だけだった。



私は、壁に向き直った。

右手に握りしめた小石――その尖った先端を、石灰質の壁へと突き立てる。



ガリ、ガリ、ガリ……。



耳朶じだを不快に震わせる硬質な音が、闇の中に響き渡る。

石粉が指に白く付着し、爪の間へと食い込む。



ここに刻むのは、情緒的な感傷ではない。

皇太后という名のボトルネックが、自ら供給不足(ストライキ)に耐えきれず自壊するまでの「損益分岐点(そんえきぶんきてん)」を導き出すための、冷徹な勝利の計算式(カウントダウン)



あと、四十八時間。

私は、その数字を、自身の網膜の裏側へと、深く、消えないように書き込んだ。

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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