鉄の境界線、あるいは触れ合えない熱
地下牢の粘りつくような静寂を、不規則な水滴の音が穿ち続けている。
指先の感覚はとうに消失し、凍てついた石床の冷気が、薄い囚人服を透過して骨の芯まで熱を奪い去っていた。
「……馬鹿な人。見つかったらどうするんですか」
喉の奥が狭まり、湿り気を帯びた掠れ声が、錆の匂いが漂う格子越しに零れた。
私は自制心を振り切り、鉄格子の隙間から、感覚の死滅した右手を外へと突き出した。
刹那、強引なほどの力感で、大きな掌が私の指を包囲する。
それは暴力的なまでの熱量だった。
私の指先が石灰質の冷気に同化していたのに対し、彼の手は、沸騰した血液が循環する心臓そのもののように熱い。
「……冷たいな」
李宵は苦悶に満ちた歪みを貌に刻むと、私の手を自身の頬へと押し当てた。
ジョリ、とした無精髭の微かなザラつきと、血管が脈打つ皮膚の弾力。
格子を隔てたわずかな隙間から、彼の肺から吐き出された龍脳の吐息が、私の凍えた肌を再起動させていく。
だが、その熱の還流を阻むように、無機質な鉄の棒が私たちの間に屹立していた。
数ミリの接近さえ許さない、物理的な「アクセス不能領域」。
「……こんな所、今すぐ壊してやる」
李宵の黄金の瞳に、網膜を焼くような青い炎が点火した。
彼が指に力を込めるたび、古い鉄格子が軋み、錆の粒子がパラパラと床に舞い落ちる。
「駄目です。……そんなことをすれば、貴方は暴君として討たれます」
私は首を振り、額を格子の冷たい面へと預けた。
――コツン。
硬質な石と鉄の感触。
至近距離から注がれる彼の熱い視線と、格子の隙間を抜けてくる湿った夜風。
その極端な温度差が、私の胸腔を締め付け、呼吸のリズムを乱していく。
「……もう少しだけ、我慢してください。……私の『毒』が、もう少しで回ります」
「鈴……」
彼は、私の名前を呼ぶ振動を格子の鉄に伝えることしかできない。
指一本を深く絡めることさえ、この垂直に切り立つ境界線が拒絶する。
けれど、触れ合えない不自由さが、逆説的に、私たちの精神的な同期を、いかなる権力でも分断不可能な「鋼鉄の契約」へと昇華させていた。
彼の睫毛が震え、一筋の透明な熱が頬を伝って零れ落ちた。
それが私の人差し指の付け根に触れ、熱い飛沫となって弾ける。
その一滴が運んできた膨大な質量。
それだけで、私の心臓をあと百年稼働させるには十分な燃料だった。
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