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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第3部『御前プレゼン』

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鉄の境界線、あるいは触れ合えない熱

地下牢の粘りつくような静寂を、不規則な水滴の音が穿(うが)ち続けている。

指先の感覚はとうに消失し、凍てついた石床の冷気が、薄い囚人服を透過して骨の芯まで熱を奪い去っていた。



「……馬鹿な人。見つかったらどうするんですか」



喉の奥が狭まり、湿り気を帯びた(かす)れ声が、(さび)の匂いが漂う格子越しに(こぼ)れた。

私は自制心を振り切り、鉄格子の隙間から、感覚の死滅した右手を外へと突き出した。



刹那(せつな)、強引なほどの力感で、大きな(てのひら)が私の指を包囲する。

それは暴力的なまでの熱量(エネルギー)だった。



私の指先が石灰質の冷気に同化していたのに対し、彼の手は、沸騰した血液が循環する心臓そのもののように熱い。






「……冷たいな」



李宵は苦悶に満ちた(ゆが)みを(かお)に刻むと、私の手を自身の頬へと押し当てた。

ジョリ、とした無精髭(ぶしょうひげ)の微かなザラつきと、血管が脈打つ皮膚の弾力。



格子を隔てたわずかな隙間から、彼の肺から吐き出された龍脳の吐息が、私の凍えた肌を再起動(リブート)させていく。

だが、その熱の還流(フィードバック)を阻むように、無機質な鉄の棒が私たちの間に屹立(きつりつ)していた。



数ミリの接近さえ許さない、物理的な「アクセス不能領域(デッドゾーン)」。



「……こんな所、今すぐ壊してやる」



李宵の黄金の瞳に、網膜を焼くような青い炎が点火した。

彼が指に力を込めるたび、古い鉄格子が(きし)み、錆の粒子がパラパラと床に舞い落ちる。



「駄目です。……そんなことをすれば、貴方は暴君として討たれます」



私は首を振り、額を格子の冷たい面へと預けた。

――コツン。



硬質な石と鉄の感触。

至近距離から注がれる彼の熱い視線と、格子の隙間を抜けてくる湿った夜風。

その極端な温度差が、私の胸腔を締め付け、呼吸のリズムを乱していく。






「……もう少しだけ、我慢してください。……私の『毒』が、もう少しで回ります」



「鈴……」



彼は、私の名前を呼ぶ振動を格子の鉄に伝えることしかできない。

指一本を深く絡めることさえ、この垂直に切り立つ境界線が拒絶する。



けれど、触れ合えない不自由さが、逆説的に、私たちの精神的な同期(シンクロ)を、いかなる権力でも分断不可能な「鋼鉄の契約」へと昇華させていた。



彼の睫毛(まつげ)が震え、一筋の透明な熱が頬を伝って零れ落ちた。

それが私の人差し指の付け根に触れ、熱い飛沫(しぶき)となって弾ける。



その一滴が運んできた膨大な質量おもい

それだけで、私の心臓をあと百年稼働させるには十分な燃料だった。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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