表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第3部『御前プレゼン』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/120

闇を駆ける足音、あるいは真夜中の侵入者

丑三つ時。

地下牢の空気は、吐き出された二酸化炭素と湿った土の匂いが混じり合い、肺の奥にどろりと沈殿している。

ネズミの爪音さえ消失した、鼓膜が痛むほどの完全な真空。



――ドサッ。



不意に、回廊の曲がり角の向こうで、物理的な質量が石床に衝突する音が響いた。

それは穀物袋を投げ出したような鈍い衝撃音でありながら、どこか生々しい「肉」の重なりを感じさせる湿った響き。



一度、二度、三度。

看守たちの意識が、音もなく刈り取られていく「現場」のノイズが、地下の静寂を塗り替えていく。






(……不測の事態? 警備体制の破綻(システムダウン)かしら)



私は湿った(わら)を蹴って身を起こし、鉄格子に顔を押し当てた。

冷え切った鉄の棒が頬の熱を奪い、錆びた金属の臭いが鼻腔を突く。



ヒタ、ヒタ、ヒタ。



足音は、皮膚が石を撫でるような驚くべき静謐さを保ちながら、確かな殺気と意志を伴ってこちらへ直線的に伸びてくる。



闇の奥から(にじ)み出してきたのは、粗末な(くず)の布で編まれた黒いフードを目深に被った、長身の影。

その人物は、私の牢の前で動きを止めると、革手袋に包まれた指先でゆっくりとフードを()ね上げた。






「……鈴」



格子を透過した青白い月明かりが、その(かお)を鋭利に切り出した。

李宵(リ ショウ)

この帝国の最高経営責任者(皇帝)が、なぜ汚穢(おわい)とアンモニア臭が滞留する、この「監獄という不採算(ふさいさん)部門」の最深部に立っているのか。



「へ、陛下!? どうして……ここには護衛も……」



「……全部、寝てもらった」



短く吐き出された言葉は、チェロの低音のように重く、それでいて微かな震えを(はら)んでいる。

彼はそのまま、私の指先を求めるように鉄格子を両手で掴み上げた。



ガチャンッ、という鎖の悲鳴。

檻の中に雪崩れ込んできたのは、この場にはあまりに場違いな、凛とした「龍脳(りゅうのう)」の香気。



高貴な紫宸殿(ししんでん)の香りが、腐敗した空気の壁を強引に切り裂き、私の肺を満たしていく。

そこに混じる、微かな、けれど確かな鉄錆(てつさび)の臭い。



彼は、鉄格子の隙間から私の輪郭を食い入るように見つめ、喉の奥で長く、熱い呼吸を漏らした。

黄金の瞳が月光を反射し、潤んだ熱を(たた)えて揺れている。



その視線は、壊れやすい硝子(ガラス)細工を検品するかのように、執拗(しつよう)に私をなぞり続けた。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ