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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第3部『御前プレゼン』

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差し入れの点心、あるいは温かな心臓

丑三つ時。

看守たちの呼吸が浅くなり、革靴の裏が石床を擦る「交代の不協和音」が地下回廊に響く。

一人の若い獄卒が、影に溶け込むような歩法で私の(おり)の前へ静止した。



彼は網膜を小刻みに動かして死角を確認すると、鉄格子の隙間から、粗末な竹紙に包まれた小さな塊を差し入れた。



「……林様。これを」



「……あなたは?」



「以前、母の薬代を……いえ、今はそんなことはどうでもいい。……陛下からです」



その二文字が鼓膜を叩いた瞬間、左胸の深部が不随意に跳ね、肋骨の裏側を強く打った。






受け取った包みから伝わるのは、冷え切った地下の空気を拒絶する、圧倒的な熱量。

竹紙の重なりを解けば、闇を切り裂くように白い不透明な湯気が立ち昇り、小麦の甘い香りと、肉汁の濃厚なアミノ酸の匂いが私の嗅覚を蹂躙(じゅうりん)した。



包み紙の裏面、墨の匂いがまだ新しい力強い筆跡で、一文字だけが刻印されている。



『待テ』



運筆の終わりに残る、僅かな(かす)れ。

それは言葉を重ねるコストを省き、意思の純度だけを抽出した、(CEO)からの最短かつ最強の指令(オーダー)だった。



「必ず助ける」「今は耐えろ」「愛している」――。

感情という名の非効率な冗長性をすべて削ぎ落とし、ただ一つの「生存」というゴールだけを指し示す、鋼の契約書。






「……温かい」



私は包子(パオズ)を両手で包み込んだ。



指先の毛細血管が急速に拡張し、彼の体温が血液を介して全身へと還流していく。

この熱こそが李宵(リ ショウ)拍動パルスそのものであり、絶望という名のシステムダウンを食い止める、最後のリブート(再起動)信号。



一口、生地を噛み切る。

熱い肉汁が舌を焼き、動物性脂肪の旨味が脳の報酬系を直接刺激した。

胃の()に落ちるたびに、損耗していた私の論理回路が再構築され、四肢に力が(みなぎ)っていく。



(……分かっています、宵。私は負けません)



最後の一片までを完全に「吸収(インプット)」し、私は竹紙を丁寧に畳んで懐の奥へと収めた。

外側で彼が権力の再編という名の戦争(オペレーション)を遂行している。



ならば私は内側で、この腐敗した現場をデバッグする。

物理的な距離は、私たちの「戦略的提携(ロマンス)」を損なう変数にはなり得ない。






その時、回廊の奥、地上へと繋がる石段から、周波数の乱れた高音が突き刺さってきた。



「……妖女を処刑せよ! 明朝、広場にて火あぶりに処す!」



皇太后の、金属を擦り合わせたような、ヒステリックな聲音(しょうね)

それは制御を失ったエンジンの異音そのもの。

私たちの撒いた「(サボタージュ)」が、彼女の神経系(システム)を修復不能なまでに侵食している証左。



私は闇の中で、唇の端を捕食者の角度で吊り上げた。

時計の針が、クライマックスという名の最終(ファイナル)監査(オーディット)へと向かって、確実に刻みを早めている。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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