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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第3部『御前プレゼン』

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沈黙する後宮、あるいはシステムダウン

背中の熱を、花崗岩(かこうがん)の冷気がじわじわと略奪していく。



司正司の最深部。地上の陽光も、喧騒も届かないこの立方体の闇の中で、私は湿った(わら)の感触を肌に感じながら、自身の吐息の白さを眺めていた。



(……そろそろ、第一段階(フェーズ・ワン)が臨界点を迎える頃かしらね)



唇の両端を、捕食者特有の角度で僅かに釣り上げる。



私がかつて「氷のロジスティクス」の最適化で救った下級役人たちのネットワーク。彼らの毛細血管のような伝達経路を通り、私の「最適化されたサボタージュ」はすでに、(きら)びやかな後宮のシステム全体へと浸食を開始しているはずだ。






――尚衣局(しょういきょく)、あるいは洗濯部門。



皇太后派の妃たちが(まと)う、最高級の「盤領袍(ばんりょうほう)」が届かない。

運良く届けられたとしても、それは生乾きの重苦しい湿気と、雑菌が繁殖した特有の悪臭を放っている。



「申し訳ございません、日照時間が足りず……」と(ひざまず)く女官たちの瞳は、一切の温度を失い、上位個体の狼狽(ろうばい)をただ記録(ログ)しているだろう。






――尚食局。



銀の器に盛られたスープから、立ち昇るべき「湯気」が消失している。

氷の配送ルートに設けた微細な「ボトルネック」の影響で、果物は芯から変色を始め、保存食特有の味気ない塩分だけが、最高権力者の舌を焼き、不快感を蓄積させていく。






――尚浴局(しょうよくきょく)



優雅な入浴というリラクゼーションの時間は、冷たい水による物理的な苦痛へと置換される。

(まき)に含まれた計算通りの水分が、不完全燃焼の黒い煙を立ち昇らせ、貴婦人たちの視界と喉を容赦なく蹂躙(じゅうりん)しているに違いない。






快適さという名のインフラが、一箇所、また一箇所と短絡(ショート)を起こしていく。

それは刃を使わぬ処刑。

「当たり前の日常」という、最も脆弱(ぜいじゃく)な基盤が崩壊していくことへの、底知れぬストレス。



地下の静寂は、地上の絶叫を反響させない。

けれど、私の脳内メモリには鮮明に描写されていた。



皇太后の喉が怒りで硬直する様。高官たちが「原因不明のエラー」に右往左往し、不採算(ふさいさん)な会議を繰り返す無様な光景。



「……ざまあみなさい」



暗闇に放たれた呟きが、冷たい壁にぶつかって消える。



現場リソースを軽視し、ロジックを無視した経営陣(トップ)への、これが末端からの「最終回答」。



システムを動かしているのは、玉座に座る者ではない。

指先を汚し、汗を流し、泥を(すす)る現場の人間なのだという事実を、彼女たちの骨の髄まで、一滴ずつ染み込ませてやる。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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