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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第3部『御前プレゼン』

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地下の執務室、あるいは反撃の拠点

――ギィィ、ガチャンッ!!



鼓膜をえぐるような重厚な鉄の軋みと、すべてを拒絶するような(かんぬき)の乾いた音が、湿った大気に波紋を広げる。

司正司(しせいし)・地下牢。

そこは、上層の華美な白檀の香りが届かぬ、滞留した水と古びた(かび)、そして使い古された銅のような血の匂いが混じり合う、五感を遮断する闇の世界だった。



私は、指先で水気を含んだ石床のザラつきを確かめながら、ゆっくりと腰を下ろした。

肌に触れる(わら)の束は、乾燥が不十分で、衣越しにチクチクとした微かな不快感を突き立ててくる。

暗闇に慣れた眼球が、壁から滴る水の軌跡と、死角を走る爪音を「現象」として捉え始める。



「……最悪の環境ですね。衛生管理(サニテーション)はどうなっているの」



自身の聲音(しょうね)が、石壁に反射して無機質に返ってくる。

けれど、胸腔(きょうくう)を支配するのは恐怖ではなく、平熱の思考だった。



煩わしい服飾規定も、皇太后の不採算(ふさいさん)な嫌味もここには届かない。

あるのは、私というリソースと、潤沢な「思考時間」だけだ。






「……さて。始めますか」



私は、袖の裏に忍ばせていた一欠片の炭を取り出した。

火事の現場で「念のため」と回収しておいた、炭化し、鋭利な角を持った木片。

石灰質の混じった白い壁面は、思考を可視化するための最高級のホワイトボードに見えた。



カリカリ、と硬質な音が闇に刻まれる。

壁に走る黒い線は、死にゆく者の遺言ではない。



この国の基底層から組織構造(アーキテクチャ)を再構築するための、「ストライキ計画書」。

末端女官の離職率低減、情報のパブリック化、そして皇太后派の不透明な資金還流の切断。



「見ていなさい。……この(おり)を、私の執務室に変えてみせるわ」



瞳孔が開き、爛々と輝く。

これは囚われの姫が救いを待つ悲劇ではない。

最も閉鎖的な現場(フィールド)に潜り込んだ、監査役による「内部告発(インサイダー)」の序章だ。






ゴホッ、ゴホッ……!!



不意に、隣の牢から、肺を抉り取るような乾いた振動が響いた。

冷たい石壁越しに伝わる、生命の不協和音。

私の構築していた緻密な計画の余白に、新たな「変数」が、その質量を伴って書き加えられた。

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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