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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第3部『御前プレゼン』

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囚人番号ゼロ、あるいは人材の墓場

ピチョン、――ピチョン。



石造りの天井から漏れ出す水滴が、不規則なメトロノームとなって冷徹な鼓膜を叩く。

司正司(しせいし)・地下牢。



そこは、アンモニアの刺激臭と(よど)んだ湿気が肺の奥まで侵食し、かつて「人間」だった者たちの吐息を重く沈殿させる、帝国の排泄物保管庫ストレージだった。






「……随分と、風通しの悪い職場オフィスね」



私は、湿り気を帯びた石床の上、腐敗し切った(わら)を緩衝材代わりにして腰を下ろした。

手首を拘束する鉄の(かせ)は、不快な自重で皮膚を圧迫し、動くたびに(さび)の粒子が毛穴に食い込む。



支給された囚人服――目の粗い麻布は、かつて(まと)っていた絹の感触を細胞が忘れるほどに、執拗(しつよう)に肌を刺し続けてきた。



だが、私の網膜は、この闇のコントラストを鮮明に捉えていた。

鉄格子の隙間から漏れる、隣房の呼吸。向かいの闇にうごめく、人の輪郭。



私は絶望に浸る代わりに、この「デッドスペース」に収容された情報資産(アセット)の監査を開始していた。






隣に沈座するのは、かつて先代皇帝の衣に針を通した、尚服局(しょうふきょく)の元長官。

向かいには、スパイスの調合だけで毒を無効化したという、尚食局(しょうしょくきょく)の元・典膳(てんぜん)



そのさらに奥の暗がりからは、弦を弾かずとも旋律を視覚化できたという、伝説的な琵琶びわの名手の気配が漂う。



(……なんてこと。ここは犯罪者の巣窟じゃない。人材の宝庫じゃないの)



皇太后(こうたいごう)という名の旧弊なシステムが、自身の権威を脅かす「高い演算能力」を持つ個体を、片端からエラー(冤罪)として処理し、この場所にパージし続けてきた結果。



皮肉なことに、この腐敗した監獄こそが、現在、耀ようの帝国において最も「IQ密度の高い空間」といういびつな特異点を形成していた。






「……ふふ」



唇の端が、不随意に釣り上がる。

後宮のホワイト化を阻んでいたのは、外部の抵抗勢力だけではない。



組織の最深部に眠る、この莫大な「未利用資源」の存在に、誰も気づいていなかったのだ。



「……さて。始めますか」



私は、手首の鉄の冷たさを、熱暴走し始めた脳を冷却するためのシンクとして利用した。

握りしめた鉄格子の硬質な感触が、指の骨を介して私の意思を増幅させていく。



「見ていなさい。……この(おり)を、私の執務室に変えてみせるわ」



暗闇の中で、私の瞳孔が最大まで拡張し、闇の中に隠された組織の「脆弱性バグ」を正確に射抜いた。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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