檻への招待状、あるいは現地調査の好機
「……よって、皇后・林氏を『妖婦』と認定し、司正司の地下牢へ収監せよ!」
老婆の喉から絞り出されたのは、乾燥した殻を指先で握りつぶすような、不快な聲音だった。
――ガチャリ。
静寂を物理的に引き裂いて、鉄と革の擦れる音が私を包囲する。
衛士たちの纏う冷たい板金が、私の視界を銀色に塗りつぶした。
手首に回されたのは、凍てつくような鉄の重み。
環の内側に残った無数の傷跡が、皮膚に食い込み、不快なザラつきを脳に伝える。
「待て!!」
肺の底を爆発させるような咆哮と共に、李宵が立ち上がった。
玉座が激しく石床に擦れ、火花が散るような金属音が広間に反響する。
彼の右手が、腰に帯びた剣の「鮫皮」を貼った柄を、血が滲むほど強く握りしめた。
黄金の瞳が、怒りに焼かれて赤く濁っている。
抜けば、内乱という名の「強制終了」。
皇太后派という不良資産を一掃するには手っ取り早いが、その代償として流れる血は、帝国の再建計画を致命的に遅延させる。
(……駄目よ、宵)
私は、鉄の重みに沈む腕を、あえて凛と保った。
そして、彼の射貫くような視線がこちらを捉えた瞬間、不敵な弧を描くように左の瞼を落としてみせた。
『大丈夫。……これは、チャンスです』
声には出さない。
瞳の輝きと、口角の僅かな引き上げだけで、彼という名の「最高経営責任者」に意図を同期させる。
彼の指先から、一瞬にして力が抜けた。
顔は、奥歯を噛み締め、爆発寸前の圧力を押し留めるように歪んでいるが、彼は剣の柄から指を離した。
「……連れてお行き」
皇太后の、氷点下の冷気を孕んだ命令。
衛士に腕を掴まれ、私の身体は重い石畳の上を引きずられていく。
背中を追いかけてくるのは、李宵の、喉を千切らんばかりの悲痛な絶叫。
心拍が激しく波打ち、喉の奥が熱く焼けるような痛みに襲われるが、私は唇を強く噛み、その鉄の味で意識を繋ぎ止めた。
瞳を濡らしている暇など、一秒も残っていない。
私は今、この国の「暗部」の象徴である監獄へ向かっているのだ。
そこには、これまで隠蔽され、放置されてきた膨大な「未処理案件」が埋もれているはずだ。
投獄? いいえ、これは違う。
最高権力者から、最も秘匿された現場への「現地調査」の認可が下りたに過ぎないのだから。
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また明日[19:00]にお会いしましょう。




