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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第3部『御前プレゼン』

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魔女裁判、あるいはエクセルのない時代の悲劇

紫宸殿(ししんでん)の広大な空間が、幾十もの喉から放たれる振動で震えている。

天井の(はり)にまで反響する怒号が、鼓膜を執拗(しつよう)に叩き、肺の空気を強制的に震わせる。



「妖術だ! あの女は、得体の知れない記号(すうじ)を羅列し、国を操ろうとしている!」



「皇后が来てからというもの、先祖代々の典礼が『不採算』の一言で切り捨てられた! これは天への明白な反逆だ!」



皇太后派の高官たちが、口角から飛沫(ひまつ)を散らし、私を指差す。

彼らが握りしめているのは、私が導入を指導した「複式簿記」の帳簿だ。



だが、墨で書かれた左右対称の均衡(バランス)は、彼らの目には理解不能な「呪文」として映り、未知への恐怖が憎悪へと変換されていく。






「静粛に! ……林鈴(リンリン)の改革は、国庫の余剰金を三割増加させた。この数値こそが、何よりも確かな実績だ!」



一段高い玉座から、李宵(リ・ショウ)の声が雷鳴のように響く。

彼の指先が椅子の肘掛けを強く握り、(うるし)(きし)む音を立てている。



だが、その正論は、皇太后が扇子(せんす)を開く微かな音にかき消された。



「数字? ……この改竄(かいざん)された偽りの記録のことであろうか?」



皇太后が、象牙の親骨を持つ扇子で、無造作に帳簿の束を弾いた。



バサリ、と乾いた音を立てて、紙束が石床に散乱する。

そこには、私の筆跡を精巧にトレースした、架空の「横領」の記録が並んでいた。



一瞥(いちべつ)しただけで分かる、計算式の不整合。

現代の表計算ソフト(エクセル)があれば、わずか一秒の整合性チェックで弾き出せる矛盾だ。だが、この世界にはそれがない。



(……アナログの全手動監査は、これだから非効率(コスト)がかかるのよ)



私は、刺すような敵意を全方位から浴びながら、脳内の温度を数度下げる。

これは論理的帰結を求める「監査」ではない。異分子を排除するための、原始的な「魔女狩り」だ。

正論という名のアルゴリズムを投げたところで、受け手のOSが対応していなければ、エラー(罵倒)しか返ってこない。



私の周囲だけ、空気の対流が止まったような真空地帯(デッドスペース)が形成されている。

数分前まで私の「改善案」を賞賛していた中立派の官僚たちも、今は石像のように固まり、視線を床のタイルへと固定している。



孤立。

それは組織の力学(ダイナミクス)が引き起こす、最も古典的な攻撃だ。

権力という名のパッチが当てられれば、事実は容易に「バグ」として処理される。



私は、微かに鼻腔を抜ける白檀(びゃくだん)の香りを深く吸い込み、思考のクロック周波数を上げた。

この理不尽な状況(バグ)をどうデバッグするか。



絶望に心拍を委ねる前に、私は次の「修正プログラム(反撃)」の構築を開始した。

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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