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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第2部『玉座の改革者』

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皇帝の執務室、あるいは機密情報の海

紫宸殿(ししんでん)の最深部。

重厚な扉が閉じられた瞬間、外界の喧騒(けんそう)は厚い石壁に遮断され、真空に近い静寂が鼓膜を圧迫した。






空間を支配するのは、数百年かけて柱の芯まで染み付いた、苦みの強い沈香(じんこう)の重奏。

足を踏み出すたび、毛足の長い絨毯(じゅうたん)が膝下までを飲み込み、歩行の振動さえも無機質に吸収していく。



「……座れ」



李宵(リ ショウ)が顎で示したのは、部屋の中央に鎮座する巨大な黒檀(こくたん)の椅子――この帝国の意思決定機関(CEO)のみが占有を許される「玉座」だった。



「え、でも……そこは陛下の……」



「いいから座れ。これは命令だ」



低く、揺るぎのない声音(しょうね)

私は促されるまま、冷たく滑らかな革張りの感触に身を預けた。



大きい。

背もたれに深く腰を下ろせば、私の体格では爪先が床から浮き、宙に放り出されたような不安定な浮遊感に襲われる。



ここから見えるのは、左右に整然と並ぶ、見たこともない古色の装丁を(まと)った秘密書簡の海。

すべてを俯瞰ふかんし、冷徹な数字で帝国の寿命を削り出す、孤独な演算者の視点だ。



李宵は私の正面に回り込むと、卓の上に次々と紫檀(したん)の木箱を並べ始めた。

ゴトリ、ゴトリ。

石床まで伝わる重い衝突音。



彼が指先で(ふた)を弾くと、そこには夕闇の中で怪しく発光する、大小様々な「印章」がうごめいていた。

血を吸ったような瑪瑙(めのう)、鈍い光沢を放つ黄金、そして、月光を凝固させたような白玉。






これらは単なる文房具ではない。

一つの押印が、数万の軍勢を国境へと走らせ、法律という名のアルゴリズムを書き換え、数多の命を紙の上で消去する――絶対的なアクセス権限パーミッションの象徴だ。



「……陛下。これは、機密保持(コンプライアンス)違反では?」



うなじから背筋にかけて、氷の粒が滑り落ちるような悪寒が走る。

見てはいけない。



このレベルの情報資産(アセット)に触れてしまえば、私の「傍観者」としてのログは完全に抹消され、二度と組織の外側へは戻れない。



李宵は私の懸念を一瞥(いちべつ)で黙らせると、最後の一つ――他の追随を許さない威圧感を放つ、羊脂白玉(ようしはくぎょく)の「伝国璽(でんこくじ)」を、その大きなてのひらで掴み上げた。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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