次の季節へ、あるいは幸福な二度寝
肺の奥まで鋭く突き刺さる、研ぎ澄まされた秋の気流。
わずかに開いた窓の隙間から、外界の冷気が指先をかすめていくが、白絹の掛け布の下に形成された最小単位の「聖域」が、私の生存を全肯定していた。
李宵の腕の中。
彼の胸板から伝わる規則的な拍動が、背骨を介して私の心音と同調していく。
酷暑の間に流した不快な汗の層は、もうない。
今の彼から立ち上るのは、体温で温められ、寝具の繊維に深く沈殿した龍脳の、安息へと誘う重厚な芳香だ。
視線を僅かに上げれば、そこには「絶対君主」の仮面を剥ぎ取った、無防備な残骸が転がっていた。
険しさは完全に弛緩し、薄い唇は微かに開いている。
かつての探花郎としての美貌が、朝の光の中で幼いほどの静謐さを纏っていた。
(……この熱源さえ確保できていれば、冬の減価償却も恐るるに足りないわね)
私は、彼の胸元に頬を深く沈めた。
氷のロジスティクスも、物理的な冷却装置も必要ない。
この堅牢な梁のような腕と、絶え間なく供給される体温という名の内部留保。
それさえあれば、この先に待ち受ける凍てつくような政争の季節も、最短ルートで踏破できる確信があった。
指先で、彼の襟足に跳ねた一房 of 髪をなぞる。
その微かな刺激に、李宵が夢の淵で身じろぎした。
無意識に回された腕が、私の腰をさらに深く、逃走経路を遮断するように引き寄せる。
肋骨が僅かに軋むほどの強固な抱擁。
それが、どんな饒舌な詩歌よりも正確に、彼の中での私の「評価価値」を物語っていた。
(……もう少しだけ、稼働を停止しましょう)
私は再び、意識をまどろみの底へと沈めていった。
定時退社を至上の善とする私が、朝の「二度寝」という最大級の贅沢に身を投じる。
これもまた、彼という不規則な変数がもたらした、私だけの聖域における「新しい日常」の風景だった。
だが、その静謐な繭の外側。
紫宸殿の冷え切った執務机の上には、張将軍から届けられた、不穏な影を孕んだ報告書が、主の目覚めを待って音もなく鎮座していた。
◆◇◆
読んでいただきありがとうございます!
もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。
また明日[19:00]にお会いしましょう。




