表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第2部『玉座の改革者』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/121

体温の再定義、あるいは必然の暖房

静寂に耐えきれず、私は逃げるように立ち上がった。



「……お茶を、淹れ直してきます」



その手首を、通りすがりに捕まえられた。

指の関節が白くなるほどの、硬質な拘束。

肌から伝わる李宵(リ・ショウ)の体温が、秋風に(さら)されていた私の末端へ、確かな圧力を持って流れ込んでくる。






「どこへ行く」



「え……だから、お茶を……」



「いらん。……こっちへ来い」



有無を言わせぬ引力が、私の身体を軌道修正させた。

視界が乱暴に回転し、背後にある寝台へとなだれ込む。






――ドサッ。






分厚い綿の重みが背中を受け止め、直後に、秋物の絹を(まと)った彼の質量が、覆いかぶさるように私の自由を奪った。



肺が圧迫され、喉の奥が狭まる。

夏の間は「システムエラー」のように感じていた彼の熱量が、今は冷えた肌に心地よく浸透し、毛細血管を一つずつ拡張させていく。



「……陛下? もう、暑くありませんよ? 私は冷たくないですし……」



「馬鹿か、お前は」



彼は吐き捨てるように(ささや)うと、私の首筋に鼻先を埋めた。

盤領袍(ばんりょうほう)の襟元から、秋の冷気に混じって、彼自身の体温で熟成された龍脳(りゅうのう)の香気が立ち上る。

深く、長く。私の脈動を確かめるような、執拗(しつよう)な吸引。






「涼しいからこそ、温め合う必要があるだろう。……それとも何か? お前は俺を、ただの保冷剤だと思っていたのか?」



「そ、それは私の台詞です……!」



抗議しようと唇を動かした瞬間、視界が彼の双眸(そうぼう)に占拠された。

直後に、熱い粘膜の感触が、私の言葉を物理的に封殺した。



夏の熱病のような、発散されるだけの熱ではない。

それは、喉を焼くほどに濃密で、時間の重みを(たた)えた熟成葡萄酒のような口づけ。






「……林鈴(リン リン)。理由は要らない」



(わず)かに唇を離し、彼は私を見下ろした。

潤んだ黄金の瞳には、外界の景色は一切映っていない。

そこにあるのは、私という「唯一の変数」に対する、捕食者めいた純粋な執着。



「暑くても、寒くても。……俺にはお前が必要だ。体温など、ただの口実に過ぎん」



心拍の跳ねが、背骨を伝って寝台に響く。

私が必死に構築していた「季節雇用の終了」という名のロジックが、彼の体温によって瞬時に融解し、胸の奥の空洞に流れ込んでいく。



彼の指が、私の衣の帯に掛かった。

スルリ、と絹が擦れる密やかな音が、室内の酸素を奪い去る。



「冬になったら、もっと離さんぞ。……覚悟しておけ」



耳朶(じだ)に直接打ち込まれた低い振動。

直後に、彼の素肌が私の皮膚と同期した。






熱い。けれど、あの酷暑の痛みはどこにもない。

それは、凍てついた思考を深部から溶かし、永遠に消えることのない、私だけの暖炉の温もりだった。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ