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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第2部『玉座の改革者』

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最後の氷、あるいは季節雇用の終了

ヒュゥ……。



乾いた木材を叩く風の音が、昨日までの熱を(はら)んだ重奏とは、明らかに異なる周波数を帯びている。






隠れ家である旧倉庫の窓際。

私は、尚食局(しょうしょくきょく)から運び込ませた昨日までの「必需品」――溶け残った氷の残骸を、指先で弾いた。



カツン、と硬質な音が室内に冷たく響く。

(かど)が鋭利に保たれたその結晶は、もはや買い手のつかない「過剰在庫デッドストック」そのものだった。



「……涼しくなりましたね」



自身の唇から(こぼ)れ落ちた振動が、人の気配を失った空洞へ吸い込まれていく。






長安を数日間にわたって蹂躙(じゅうりん)した猛烈な熱波は、昨夜の嵐がすべてをパージしていった。

代わりに肺を満たすのは、湿り気を排した透明な秋の予感。

肌をなぞる空気はひんやりと研ぎ澄まされ、皮膚を焼くような不快な粘着感は、どこにも見当たらない。



(……至極、快適。脳内の演算速度(パフォーマンス)も最大効率まで復帰するはず)



論理的帰結(ロジック)では、そう確信している。

けれど、横隔膜の裏側に得体の知れない空白が広がり、血液の温度をじりじりと下げていくのを感じる。



この夏、李宵(リ ショウ)が公務の合間を縫ってここへ通い詰め、私の膝を領空侵犯し続けた「根拠」は、間違いなくあの殺人的な暑さだった。

私は彼の火照った脳を鎮める「人間冷却パック」であり、この薄暗い倉庫は彼にとっての「聖域(避暑地)」だったはずだ。



だが、そのニーズ(市場需要)が物理的に消滅した今、私たちの「非公式な対話」を継続させるための、新たな妥当性(ロジック)を私は持ち合わせていない。



視線を御花園(ぎょかえん)へ向ければ、昨日まで深緑を誇っていた木々が、クロロフィルの退行を告げる錆色(さびいろ)へと変色を始めている。






後宮に伝わる不吉な不文律――「秋扇(しゅうせん)」。

夏の間、酷暑から主を救った扇が、秋風が吹いた途端に箱の底へと追放されるという、寵愛の賞味期限を指す残酷な比喩。



「……まさか、ね」



私は自嘲気味に首を振り、半分以上が水へと還った氷の塊を、真鍮のたらいへと移した。



指先を()う冷たい水滴。

その鋭い冷覚が、毛細血管を伝って心臓をチリリと突き、微かな生理的な震えを誘発した。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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