最後の氷、あるいは季節雇用の終了
ヒュゥ……。
乾いた木材を叩く風の音が、昨日までの熱を孕んだ重奏とは、明らかに異なる周波数を帯びている。
隠れ家である旧倉庫の窓際。
私は、尚食局から運び込ませた昨日までの「必需品」――溶け残った氷の残骸を、指先で弾いた。
カツン、と硬質な音が室内に冷たく響く。
角が鋭利に保たれたその結晶は、もはや買い手のつかない「過剰在庫」そのものだった。
「……涼しくなりましたね」
自身の唇から零れ落ちた振動が、人の気配を失った空洞へ吸い込まれていく。
長安を数日間にわたって蹂躙した猛烈な熱波は、昨夜の嵐がすべてをパージしていった。
代わりに肺を満たすのは、湿り気を排した透明な秋の予感。
肌をなぞる空気はひんやりと研ぎ澄まされ、皮膚を焼くような不快な粘着感は、どこにも見当たらない。
(……至極、快適。脳内の演算速度も最大効率まで復帰するはず)
論理的帰結では、そう確信している。
けれど、横隔膜の裏側に得体の知れない空白が広がり、血液の温度をじりじりと下げていくのを感じる。
この夏、李宵が公務の合間を縫ってここへ通い詰め、私の膝を領空侵犯し続けた「根拠」は、間違いなくあの殺人的な暑さだった。
私は彼の火照った脳を鎮める「人間冷却パック」であり、この薄暗い倉庫は彼にとっての「聖域」だったはずだ。
だが、そのニーズが物理的に消滅した今、私たちの「非公式な対話」を継続させるための、新たな妥当性を私は持ち合わせていない。
視線を御花園へ向ければ、昨日まで深緑を誇っていた木々が、クロロフィルの退行を告げる錆色へと変色を始めている。
後宮に伝わる不吉な不文律――「秋扇」。
夏の間、酷暑から主を救った扇が、秋風が吹いた途端に箱の底へと追放されるという、寵愛の賞味期限を指す残酷な比喩。
「……まさか、ね」
私は自嘲気味に首を振り、半分以上が水へと還った氷の塊を、真鍮のたらいへと移した。
指先を這う冷たい水滴。
その鋭い冷覚が、毛細血管を伝って心臓をチリリと突き、微かな生理的な震えを誘発した。
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