完食、あるいは甘い余韻の凍結
白磁の底に残った一筋の白い跡が、月光を反射して真珠のように鈍く光る。
特製氷菓という名の緊急資産は、すべて李宵の体内へと取り込まれ、その役割を完遂していた。
彼は満足げに肺の底から熱い息を吐き出すと、私の指先に残留していた粘り気を、自身の盤領袍の袖で、あるいは上質な絹の手拭いで、丁寧に、慈しむように拭い取っていく。
指先をなぞる彼の親指の、剣ダコによる微かなザラつき。
先程までの、理性をかなぐり捨てた獣のような激しさが嘘のように、その手つきは壊れやすい硝子細工を検品するかのように穏やかで、静かだった。
「……美味かった。生き返った気分だ」
「それは良かったです。……苦労して開発した甲斐がありました」
私は長椅子の背に、泥のように身体を預けて答えた。
物理的な攪拌作業もさることながら、彼という名の「巨大な飢え」に正面から対応し、その熱に呑み込まれそうになるのを耐え忍ぶ行為は、通常の監査業務の数倍のエネルギーを私から奪い去っていた。
この男という、論理の外側に存在するイレギュラー。
どんなに冷徹な計算式を組み上げても、彼が私を覗き込む黄金の瞳一つで、全ての変数は瞬時に書き換えられてしまう。
「だが、まだ足りないな」
李宵が、私の耳朶を熱い吐息でなぞるように顔を寄せ、低いバリトンで囁く。
「次は、もっと甘くて……熱いのを頼む。夜は長いぞ」
その声音に含まれた粘り気のある独占欲。
私の頬が、急速に再加熱を始めた、その瞬間。
――バササッ!!
夜の静寂を切り裂く、力強い羽ばたきの音。
開け放たれた窓から、一羽の鋭利な嘴を持つ鷹が、冷たい夜風を伴って舞い降りた。
その鋭い鉤爪が、卓の角を掴んで硬質な音を立てる。
脚に結ばれた、鮮血のような「赤」の封蝋が施された密書。
相好から、一瞬にして甘美な残滓が剥ぎ取られた。
彼は無言で鷹から書状を奪い、指先で封を砕く。
パリッ、という乾いた音が、室内の空気を物理的に凍結させた。
先程までの、溶けかけたアイスクリームのような蕩ける空気は霧散し、代わりに立ち込めるのは、磨き上げられた刀身のような、ひりつく緊張感。
「……陛下?」
「……張将軍からだ。……『今夜、西の城壁にて待つ。貴殿の半身について話がある』と」
半身。
それは、この宮廷という名の不採算部門において、唯一の「譲渡不可能な資産」として彼に定義された、私のことだ。
李宵の大きな掌の中で、上質な宣紙が無惨に、くしゃりと握り潰された。
甘い冷却の時間は、終了を告げられた。
窓から流れ込む、焦げ臭い煙の匂いを孕んだ冷たい夜の重みが、再び私たちの聖域を包囲し始めていた。
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