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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第2部『玉座の改革者』

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完食、あるいは甘い余韻の凍結

白磁の底に残った一筋の白い跡が、月光を反射して真珠のように鈍く光る。

特製氷菓という名の緊急資産(アセット)は、すべて李宵(リ ショウ)の体内へと取り込まれ、その役割を完遂していた。



彼は満足げに肺の底から熱い息を吐き出すと、私の指先に残留していた粘り気を、自身の盤領袍(ばんりょうほう)の袖で、あるいは上質な絹の手拭(てぬぐ)いで、丁寧に、慈しむように拭い取っていく。






指先をなぞる彼の親指の、剣ダコによる微かなザラつき。

先程までの、理性をかなぐり捨てた獣のような激しさが嘘のように、その手つきは壊れやすい硝子細工(ガラス)を検品するかのように穏やかで、静かだった。



「……美味かった。生き返った気分だ」



「それは良かったです。……苦労して開発した甲斐がありました」



私は長椅子の背に、泥のように身体を預けて答えた。

物理的な攪拌(かくはん)作業もさることながら、彼という名の「巨大な飢え」に正面から対応し、その熱に呑み込まれそうになるのを耐え忍ぶ行為は、通常の監査業務の数倍のエネルギーを私から奪い去っていた。



この男という、論理の外側に存在するイレギュラー。

どんなに冷徹な計算式を組み上げても、彼が私を覗き込む黄金の瞳一つで、全ての変数は瞬時に書き換えられてしまう。



「だが、まだ足りないな」



李宵が、私の耳朶(じだ)を熱い吐息でなぞるように顔を寄せ、低いバリトンでささやく。



「次は、もっと甘くて……熱いのを頼む。夜は長いぞ」






その声音に含まれた粘り気のある独占欲。

私の頬が、急速に再加熱(オーバーヒート)を始めた、その瞬間。



――バササッ!! 



夜の静寂を切り裂く、力強い羽ばたきの音。

開け放たれた窓から、一羽の鋭利なくちばしを持つ鷹が、冷たい夜風を伴って舞い降りた。






その鋭い鉤爪(かぎづめ)が、卓の角を掴んで硬質な音を立てる。

脚に結ばれた、鮮血のような「赤」の封蝋(ふうろう)が施された密書。






相好(そうごう)から、一瞬にして甘美な残滓ざんし()ぎ取られた。

彼は無言で鷹から書状を奪い、指先で封を砕く。



パリッ、という乾いた音が、室内の空気を物理的に凍結させた。

先程までの、溶けかけたアイスクリームのようなとろける空気は霧散し、代わりに立ち込めるのは、磨き上げられた刀身のような、ひりつく緊張感。



「……陛下?」



「……チャン将軍からだ。……『今夜、西の城壁にて待つ。貴殿の半身について話がある』と」



半身(パートナー)

それは、この宮廷という名の不採算(ふさいさん)部門において、唯一の「譲渡不可能な資産」として彼に定義された、私のことだ。



李宵の大きなてのひらの中で、上質な宣紙(せんし)が無惨に、くしゃりと握り潰された。

甘い冷却の時間は、終了を告げられた。



窓から流れ込む、焦げ臭い煙の匂いを(はら)んだ冷たい夜の重みが、再び私たちの聖域(セーフティ・ゾーン)を包囲し始めていた。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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