背徳のテイスティング、あるいは理性の砂時計
西日の残滓が、卓上に置かれた白磁の器を斜めに刺し、器の縁で溶け始めた氷菓の輪郭を白くぼやかしている。
李宵は、その調合の結果には一瞥もくれず、私の人差し指の先に無様に付着した白い滴を一点に凝視した。
全力で回廊を駆けた際に、私の制御を逃れて零れ落ちた、わずかな「過失」。
「……まずは、味見だ」
彼は銀のスプーンには指一本触れず、私の手首を捕らえると、その指先を唇の間へと滑り込ませた。
――チュッ。
湿った吸い付きの音が、夕闇が沈殿し始めた室内で異常なほど明瞭に響く。
指先から心臓へ、逆流するような熱の衝撃。
硝石の吸熱反応によって芯まで冷え切っていた私の指先に、彼の舌の圧倒的な熱量と、ざらついた粘膜の微細な起伏が絡みつく。
それは理性を咬み切る蛇のようだった。
熱を持った鱗が這い上がるように、彼は私の指を口腔内の奥深くへと引き込み、逃げ場を完全に封鎖した。
「っ……陛下、行儀が悪いです……!」
声帯が震え、辛うじて放たれた抗議は、彼の口内の熱気にかき消された。
彼はさらに深く、第二関節を圧迫するように口に含み、舌先で指の腹を執拗に撫ぜ上げた。
脊髄を直接焼かれるような、電気的な戦慄。
膝の関節から力が抜け、視界がちかちかと明滅した。
「……甘いな」
ようやく指が解放されたとき、そこには銀色に光る唾液の糸が引かれ、皮膚の温度は彼の熱に塗り替えられていた。
李宵は、白濁したアイスの残滓を唇の端に滲ませたまま、瞳孔を捕食者のそれへと開き、私を見上げた。
「……氷菓のことですか?」
「いいえ。……お前が、だ」
耳朶を直接揺さぶる、重低音のバリトン。
そこに冗談や遊戯の軽やかさは欠片もない。
目の前にいるのは、私という個体を、ただ消費すべき「純粋な糖分」として定義し直した男の、逃れようのない視線だった。
卓上の器の中で、アイスクリームが音もなくその形を失っていく。
均衡を保っていた結晶が、外気温という抗えない変数の前に崩れ、ドロドロの液体へと堕ちていく。
それはまさに、私の脳内にある「傍観者」としての監査ロジックが、彼の体温によって融解していく様そのものだった。
「……足りない。もっと寄越せ」
彼は私の腰を強引に引き寄せ、今度は私の唇に残ったクリームの匂いを、物理的な圧力で奪いにかかってきた。
氷点下の冷気と、彼の肺から吐き出される熱い龍脳の吐息。
その暴力的なまでの温度差に、私の感覚制御は完全にバグを起こし、崩壊を始めていた。
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