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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第2部『玉座の改革者』

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背徳のテイスティング、あるいは理性の砂時計

西日の残滓(ざんし)が、卓上に置かれた白磁の器を斜めに刺し、器の縁で溶け始めた氷菓の輪郭を白くぼやかしている。



李宵(リ ショウ)は、その調合(レシピ)の結果には一瞥いちべつもくれず、私の人差し指の先に無様に付着した白いしずくを一点に凝視した。

全力で回廊を駆けた際に、私の制御を逃れて零れ落ちた、わずかな「過失」。






「……まずは、味見だ」



彼は銀のスプーンには指一本触れず、私の手首を捕らえると、その指先を唇の間へと滑り込ませた。






――チュッ。






湿った吸い付きの音が、夕闇が沈殿し始めた室内で異常なほど明瞭に響く。

指先から心臓へ、逆流するような熱の衝撃。



硝石(しょうせき)の吸熱反応によって芯まで冷え切っていた私の指先に、彼の舌の圧倒的な熱量と、ざらついた粘膜の微細な起伏が絡みつく。

それは理性をみ切る蛇のようだった。



熱を持った(うろこ)()い上がるように、彼は私の指を口腔内の奥深くへと引き込み、逃げ場を完全に封鎖(ロック)した。





「っ……陛下、行儀が悪いです……!」



声帯が震え、(から)うじて放たれた抗議は、彼の口内の熱気にかき消された。

彼はさらに深く、第二関節を圧迫するように口に含み、舌先で指の腹を執拗しつように撫ぜ上げた。



脊髄を直接焼かれるような、電気的な戦慄(せんりつ)

膝の関節から力が抜け、視界がちかちかと明滅した。






「……甘いな」



ようやく指が解放されたとき、そこには銀色に光る唾液の糸が引かれ、皮膚の温度は彼の熱に塗り替えられていた。

李宵は、白濁したアイスの残滓(ざんし)を唇の端に(にじ)ませたまま、瞳孔を捕食者のそれへと開き、私を見上げた。



「……氷菓のことですか?」



「いいえ。……お前が、だ」



耳朶(じだ)を直接揺さぶる、重低音のバリトン。

そこに冗談や遊戯の軽やかさは欠片(かけら)もない。



目の前にいるのは、私という個体を、ただ消費すべき「純粋な糖分」として定義し直した男の、逃れようのない視線だった。






卓上の器の中で、アイスクリームが音もなくその形を失っていく。

均衡を保っていた結晶が、外気温という抗えない変数の前に崩れ、ドロドロの液体へと()ちていく。



それはまさに、私の脳内にある「傍観者」としての監査ロジックが、彼の体温によって融解していく様そのものだった。






「……足りない。もっと寄越せ」



彼は私の腰を強引に引き寄せ、今度は私の唇に残ったクリームの匂いを、物理的な圧力で奪いにかかってきた。



氷点下の冷気と、彼の肺から吐き出される熱い龍脳(りゅうのう)の吐息。

その暴力的なまでの温度差(ギャップ)に、私の感覚制御コントロールは完全にバグを起こし、崩壊を始めていた。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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