とろける試作品、あるいは不凍資産の輸送限界
木造の回廊が、私の焦燥を刻むように小刻みな悲鳴を上げる。
両手で支えた銀の盆の上、白磁の器の底に敷き詰められた氷が、振動に合わせて
「シャリ、シャリ」
と硬質な音を立てた。
器の中央。
白雪のように削り出され、纏った液状の塊が、自身の質量に耐えかねるように微かに震えている。
暑い。
西から差し込む橙色の光が、剥き出しの首筋をじりじりと焼き、視界の端で陽炎を躍らせる。
器の表面には、大気中の水分が急速に凝結し、白磁の温度を奪う「涙」となって流れ落ちていた。
(……溶けないで。物理的な形状を保てるのは、あと数分が限界のはず)
これは、単なる嗜好品ではない。
火災の事後処理で精神の潤滑油を使い果たし、誰にも見せぬ渇きを抱え込んだあの男への、私からの「緊急処方箋」だ。
攪拌不足で組織が崩壊した失敗作など、私の職業倫理が、そして何よりこの高鳴る鼓動が許さない。
肩で息をしながら、隠れ家の重い扉を、肘を使って強引に押し開ける。
「……遅い」
静寂が支配する薄暗い室内に、その低い声音が沈殿していた。
卓に上体を預けていた李宵が、獲物の接近を察知した獣のように、ゆっくりと顔を上げる。
赭黄の衣の襟元は、理性と共に寛げられ、汗ばんだ鎖骨が灯火を弾いて白く浮き上がっている。
その黄金の瞳は、渇きに耐える猛禽のような鋭さと、一滴の雫を求める傷ついた子犬のような揺らぎを同時に湛えていた。
「へ、陛下……お待たせしました。……新作の、氷菓です」
私は震える指先で、器を彼の前に差し出した。
全工程の最終段階。
表面はすでに艶を帯び、今にもその輪郭を熱に融解させようと、危うい柔らかさで揺れている。
彼の喉仏が、その揺らぎに呼応するように、ゴクリと上下した。
「……これが、お前の言っていた『冷却材』か」
李宵は匙を手に取る暇さえ惜しむように、私の手首を掴み、強引に引き寄せた。
手首に食い込む、逃走を許さない指先の熱。
「待ちくたびれたぞ。……俺がどれほど渇いていたか、分かっているのか?」
耳朶を直接震わせる、重苦しいバリトンの残響。
それは、目の前の氷菓への渇望か? それとも、私の体温を求める別の飢えか?
彼の網膜に焼き付いた自分の顔が赤く上気していくのを感じながら、私は私自身が、器の中の白雪よりも先に形を失って溶けていくのを、ただ無力に受け入れていた。
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また明日[19:00]にお会いしましょう。




