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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第2部『玉座の改革者』

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聖域の告白、あるいは青い炎の孤独

爪の間にこびりついた黒い(すす)が、洗っても洗っても落ちない。



鎮火から半刻(はんこく)――およそ一時間。

隠れ家である旧倉庫の静寂は、数刻前までの喧騒(けんそう)が嘘のように、肺の奥に沈殿した焦げ臭い空気だけを強調していた。






窓際に立つ李宵(リ ショウ)は、彫像のように動かない。

まだ微かな煙の尾を引く西の空を凝視するその背中は、赭黄(しゃこう)ほうが煤で汚れ、ところどころ火の粉で()き切られている。



それは、世界から絶縁された絶対君主が、独りきりで氷のおりに閉じ込められているような、凍てつく孤独のシルエットだった。






(……彼は、演算を終えている)



この業火が単なる過失ではなく、改革への致命的な「監査テロ」であることを。

最も信頼すべき身内から心臓を狙われた、その深淵(しんえん)を覗き込むような静止。



「……ショウ



私は、帝国の管理システムとしての呼称を捨て、ただ一人の男としての名を呼んだ。



絹が擦れる微かな音を立て、彼がゆっくりとこちらを向く。

煤で汚れた端整な(かお)

その瞳の奥には、猛火もうかよりも深い、酸素を奪い尽くされた「青い炎」のような哀しみが(よど)んでいた。



「……俺は、氷の玉座に座っているようだ」



独り言のように、乾いた声音が(こぼ)れ落ちる。



「周囲は炎で囲まれている。……誰の手を取っても、火傷かえんをするか、凍傷になるかだ。……この帝国で、信じられる変数など、何一つない」






弱音。

それは、剥き出しになった皇帝の脆弱ぜいじゃくコア



彼は音もなく私に歩み寄り、震える指先を私の頬に伸ばした。

触れた指は、死体のように氷点下まで冷え切り、けれどその指先が触れた私の肌は、熱に浮かされたように火傷しそうな熱を帯びている。



「……だが、お前だけは違う。この業火の中でも、お前だけは計算ロジックを違えず、溶けずに正しい未来こたえを示してくれる」



祈るような所作で、彼が私の額に自身のそれを押し当てた。

互いの異常な体温が、皮膚という境界線を越えて伝播デリバリーされる。






煤の苦さ、汗の湿り気、そして焼けた龍脳(りゅうのう)の香気が混ざり合う、生々しいまでの生存の証跡。



「……誰も信じられない世界で、お前だけが俺の計算せかいの中にいる。……頼む、俺の前から消えるな。リン



それは、君主の命令ではない。

暗闇を彷徨(さまよ)う子供のような、切実で暴力的なまでの懇願。






私は彼の強張(こわば)った背中に腕を回し、その微かな震えを、自身の体温ですべて吸い上げた。



最強の皇帝。孤独な改革者。

けれど今、私の腕の中にいるのは、ただ一人の、私の加護を必要とする「聖域」そのものだった。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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