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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第2部『玉座の改革者』

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鎮静への渇望、あるいは甘い冷却材

夜のとばりが力なく剥がれ、窓の向こうで空が冷めたかゆのような白へと変わっていく。



冬冬(トントン)――、冬冬(トントン)――」






街鼓(がいこ)の響きが、重い湿度を含んだ大気に溶け込み、疲弊した鼓膜を頼りなく叩いた。



私たちは、古い寝台の縁に並び、ただ重力に身を預けていた。

視界から火は消えた。けれど、肺の奥に残留した「破壊の熱」は、呼気のたびに喉の粘膜をじりじりと焼いている。



全身が、制御不能な熱量を(はら)んだまま停滞している。

舌の上には、墨と灰を混ぜたようなざらついた苦みがへばりつき、水分を奪い去っていた。



ただの井戸水では、この深層に残る「焦げ」は洗い流せない。

もっと根源的に、中枢神経から魂の端々までを凍結させてくれるような、無垢で甘美な「何か」が、今の私には唯一必要な資産アセットだった。




「……熱いな」




李宵(リ ショウ)が、低く(かす)れた声音を漏らした。

指先が乱暴に盤領袍(ばんりょうほう)の襟を(くつろ)げ、汗で不気味に光る鎖骨を(さら)す。



その湿った黄金の瞳が、最短距離を辿って私の唇へと吸い寄せられた。






「口の中まで、火の味がする。……この熱を冷ますには、どうすればいい?」



その問いが脳内の演算回路を叩いた瞬間、一つの処方箋が火花を散らした。



この非論理的な熱を物理的に鎮静化させ、極限まで摩耗した脳に迅速にグルコースを供給し、二人だけの静謐な「聖域」を再定義するための、魔法のようなソリューション。



(……そうだ。酥山(そざん)最適化アップデートすればいい)






唐代に存在する、牛酪(バター状の乳製品)を熱して溶かし、氷の上に滴らせて山のように盛り付ける「酥山」。



だが、それだけでは足りない。

もっと滑らかで、分子レベルで舌の上で融解する、現代の叡智を詰め込んだ「極上の氷菓」。



それを精製しよう。

彼を、そして私自身という「システム」を再起動させるために。




「……陛下。私が、極上の『冷却材』をご用意します」




「冷却材?」




「ええ。……身も心もとろけるような、甘くて冷たいものです」




私が口角を(わず)かに上げ、意味深な数値を瞳に宿すと、李宵は黄金の瞳を細めた。

獲物の頸動脈を狙うような、暗く重い熱がその奥で渦巻く。




「……ほう。……楽しみにしているぞ」




低い笑みが、首筋を這う。



「もし不味かったら、お前自身で熱を冷ましてもらうからな」



耳朶(じだ)(かす)める、蜂蜜のように粘りつく低音。



それは、次なる官能的な実証実験への、逃げ場のない招待状だった。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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