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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第2部『玉座の改革者』

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熱帯夜の不協和音、あるいは供給された酸素の罠

白茶(はくちゃ)の湯気が、青磁の縁をなぞって静かに消える。



隠れ家――二人の聖域を抜けていくのは、数刻前まで部屋を埋め尽くしていたよどんだ熱気ではない。

湿り気を帯びた涼やかな夜風が、薄絹の(とばり)を波立たせ、卓上の灯火を不規則に(またた)かせていた。



李宵(リ・ショウ)は、その顔から絶対君主の冷徹な仮面を()ぎ取っていた。

白茶を(すす)る仕草は緩やかで、語る言葉の端々には、未踏の地図を広げる少年のごとき無垢な熱が宿っている。



「次は水路だな。……お前の言う通り、流れを良くすれば、国は生き返る。澱みこそが諸悪の根源だ」



「ええ。……私たちなら、変えられます。物理的な構造を変えれば、人の意識も変わるのです」



私は、彼の(てのひら)の熱を確かめるように、その手を強く握りしめた。

この指先が描くスプレッドシート上の数値が、現実に風を呼び、この千年の澱みを浄化していく。



その合理的で甘やかな手応えに、心臓が静かな全能感に満たされた、その瞬間だった。




カンカンカン!! カンカンカン!! 



夜禁の静寂を物理的に引き裂く、金属的な絶叫。

それは規則正しい街鼓(トントン)のリズムではない。耳朶(じだ)を刺し、内臓までを震わせる、半鐘(はんしょう)の乱打だ。






私たちは同時に椅子を蹴り、窓際へと滑り込んだ。



「……なんだ?」




李宵の声が、一瞬で鋼の温度へと硬直する。



西の空。

藍色の天幕の一部が、ドロドロと溶け出した溶岩のような不自然な(あか)に侵食されていた。

夕映えの残滓ではない。それは酸素を(むさぼ)り、闇を食い破る、禍々(まがまが)しい劫火(ごうか)の照り返し。






「……火事? あれは……西の離宮か?」



西の離宮。

膨大な公文書を収める書庫と、先帝の遺された側室たちが静養する、最も風通しの悪かったはずの閉鎖区画。



私の脳内の演算回路が、瞬時に最悪の変数を弾き出し、背筋に戦慄(せんりつ)を走らせる。



――ベンチュリ効果。

私が昼間にぶち抜いたあの壁。

あれは換気効率を飛躍的に向上させたが、同時にそれは、建物全体に「酸素を強制供給する煙突(チムニー)」としての機能を与えてしまったことを意味する。






(……火の回りが、早すぎる)




物理的な障壁が消えた空間を、風が酸素を運び、炎を加速させる。

これは単なる失火か。

それとも、私が風を通したという事実を逆手に取り、被害の拡大を最大化させようとする、旧弊勢力による残酷な「外部監査メッセージ」なのか。



開かれた窓から、焦げた紙の臭いと、熱を(はら)んだ灰の粒子が舞い込み、舌先に苦い砂の味を残す。

さきほどまで頬を撫でていた「新しい時代の風」は、今や灰と混沌を運ぶ死の導線へと変貌していた。



李宵が私の肩を抱く手に、逃亡を許さないほどの力がこもる。



その痛みは、組織の再編には必ず激しい血の流出コストが伴うという冷徹な事実を、私の肉体に刻み込んでいた。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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