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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第2部『玉座の改革者』

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粉塵の中のキス、あるいは防風林の独占欲

(つぶて)が砕ける乾いた音が、靴底を通して足裏に響く。

職人たちが去った後の静寂。私は一人、まだ煉瓦の微粒子が白く煙る瓦礫(がれき)の山の上に立ち、新しく開通した「風の道」の只中にいた。



西日が低い角度から差し込み、滞留する粉塵を透過して金色の筋を引く。






チンダル現象によって可視化された光の帯が、私の周囲で幻想的な(おり)を形成している。

吹き抜ける風が、汗で張り付いていた後れ毛を乱暴に躍らせ、肺の奥まで清涼な酸素を届けていた。



「……派手にやったな」



背後から、鼓膜を心地よく震わせるチェロのような低音が響いた。

反射的に心拍が数値を上げる。

李宵(リ・ショウ)だ。






護衛を遠ざけ、彼は瓦礫の鋭利な角など意に介さぬ優雅な運歩で近づいてくる。

夕日に燃える「赭黄(しゃこう)」の衣が、網膜を焼くほどの彩度で揺れていた。



「陛下。……ご覧ください、この風を。計測したところ、北側の室温は五度は下がりました。これで作業効率も……」



私は「カイゼン」の成果を誇るべく、事務的な声音で振り返った。



その瞬間、一際強い突風が回廊を駆け抜け、私の緩んでいた襟元を無慈悲に押し広げる。

冷気に(さら)された鎖骨のくぼみ。汗ばんだ肌が夕日に照らされ、体温を奪われながら白く発光した。



李宵の足が、凍りついたように止まる。

彼の黄金の瞳が、剥き出しになった私の首筋を一点に捕捉した。

穏やかな称賛は一瞬で霧散し、代わりに底知れぬ、暗く粘り気のある熱がその双眸に宿る。



「……風通しが良すぎるのも、考えものだな」



彼は大股で距離を詰め、私の視界を塞ぐように立ちはだかった。

広い背中が、吹き付ける風を物理的に断絶する壁となる。



そして、私の襟元を乱暴に、けれど指先だけは繻子(しゅす)をなぞるように慎重な手つきで合わせ直した。



「無防備すぎる。……ここにはまだ職人も、衛士も残っているのだぞ」



「仕事中ですから、多少の乱れは……」



「許さん」



有無を言わせぬ断定。

彼は私の腰を強引に引き寄せ、埃まみれの緑衣ごと、その堅牢な胸板へと叩きつけた。






鼻先に押し付けられた胸元から、龍脳(りゅうのう)の香気が粉塵の匂いを強引にパージし、私の全感覚を制圧していく。



「お前の肌を見ていいのは、俺だけだ。……風でさえも、お前に触れるものすべてに嫉妬する」



耳朶(じだ)に直接打ち込まれた低い吐息が、私の理性を甘く麻痺させる。

彼は私の(あご)(すく)い上げ、逃げ場を完全に封鎖した。






瓦礫の上、舞い踊る金色の粒子の中での、一方的な「所有権の執行」。



熱い。

吹き抜ける涼風が嘘のように、彼と接している唇と粘膜だけが、沸騰した蜜のように熱を帯びている。

吸い尽くすような深い口づけ。舌先が私の口腔内をなぞり、そこに刻印を()していく。






彼は私を風雨から守る「防風林」であり、同時に私の視界を限定し、外界から隔離しようとする「壁」そのものだ。



壊したはずの煉瓦の壁が、形を変えて――より強固で、甘美な「愛」という名の監獄となって、私を囲い込んでいる。

その非合理な独占欲の重みが、今の私にはどうしようもなく愛おしく、抗いがたい引力として背骨を震わせていた。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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