粉塵の中のキス、あるいは防風林の独占欲
礫が砕ける乾いた音が、靴底を通して足裏に響く。
職人たちが去った後の静寂。私は一人、まだ煉瓦の微粒子が白く煙る瓦礫の山の上に立ち、新しく開通した「風の道」の只中にいた。
西日が低い角度から差し込み、滞留する粉塵を透過して金色の筋を引く。
チンダル現象によって可視化された光の帯が、私の周囲で幻想的な檻を形成している。
吹き抜ける風が、汗で張り付いていた後れ毛を乱暴に躍らせ、肺の奥まで清涼な酸素を届けていた。
「……派手にやったな」
背後から、鼓膜を心地よく震わせるチェロのような低音が響いた。
反射的に心拍が数値を上げる。
李宵だ。
護衛を遠ざけ、彼は瓦礫の鋭利な角など意に介さぬ優雅な運歩で近づいてくる。
夕日に燃える「赭黄」の衣が、網膜を焼くほどの彩度で揺れていた。
「陛下。……ご覧ください、この風を。計測したところ、北側の室温は五度は下がりました。これで作業効率も……」
私は「カイゼン」の成果を誇るべく、事務的な声音で振り返った。
その瞬間、一際強い突風が回廊を駆け抜け、私の緩んでいた襟元を無慈悲に押し広げる。
冷気に晒された鎖骨のくぼみ。汗ばんだ肌が夕日に照らされ、体温を奪われながら白く発光した。
李宵の足が、凍りついたように止まる。
彼の黄金の瞳が、剥き出しになった私の首筋を一点に捕捉した。
穏やかな称賛は一瞬で霧散し、代わりに底知れぬ、暗く粘り気のある熱がその双眸に宿る。
「……風通しが良すぎるのも、考えものだな」
彼は大股で距離を詰め、私の視界を塞ぐように立ちはだかった。
広い背中が、吹き付ける風を物理的に断絶する壁となる。
そして、私の襟元を乱暴に、けれど指先だけは繻子をなぞるように慎重な手つきで合わせ直した。
「無防備すぎる。……ここにはまだ職人も、衛士も残っているのだぞ」
「仕事中ですから、多少の乱れは……」
「許さん」
有無を言わせぬ断定。
彼は私の腰を強引に引き寄せ、埃まみれの緑衣ごと、その堅牢な胸板へと叩きつけた。
鼻先に押し付けられた胸元から、龍脳の香気が粉塵の匂いを強引にパージし、私の全感覚を制圧していく。
「お前の肌を見ていいのは、俺だけだ。……風でさえも、お前に触れるものすべてに嫉妬する」
耳朶に直接打ち込まれた低い吐息が、私の理性を甘く麻痺させる。
彼は私の顎を掬い上げ、逃げ場を完全に封鎖した。
瓦礫の上、舞い踊る金色の粒子の中での、一方的な「所有権の執行」。
熱い。
吹き抜ける涼風が嘘のように、彼と接している唇と粘膜だけが、沸騰した蜜のように熱を帯びている。
吸い尽くすような深い口づけ。舌先が私の口腔内をなぞり、そこに刻印を捺していく。
彼は私を風雨から守る「防風林」であり、同時に私の視界を限定し、外界から隔離しようとする「壁」そのものだ。
壊したはずの煉瓦の壁が、形を変えて――より強固で、甘美な「愛」という名の監獄となって、私を囲い込んでいる。
その非合理な独占欲の重みが、今の私にはどうしようもなく愛おしく、抗いがたい引力として背骨を震わせていた。
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