壁の崩壊、あるいは物理的風通しの改善
ガーン! ――ガーン!
大槌が煉瓦を穿つ、臓器を直接揺さぶるような重く鈍い衝撃が、石床を伝って足裏から脳天へと突き抜ける。
尚功局から選抜された、汗で背中を光らせる屈強な職人たちが、私の指し示した「一点」に向けて、容赦なく変革の鉄槌を打ち下ろしていた。
舞い上がる赤茶色の砂塵。
それは汗ばんだ喉元にへばりつき、眼球の裏側をザラつかせる厄介な異物だ。
だが、手拭いで口元を覆う私の視界には、それが古い因習を焼き払う「狼煙」のように映っていた。
一撃ごとに、百年以上も空気を殺し続けてきた分厚い壁に、綻びという名の「綻び」が走る。
それは単なる破壊ではない。
帝国の血管に詰まった血栓を取り除く、精密な外科手術に似た切実さを伴っていた。
ガラガラッ……ドサァァァッ!
最後の一塊、龍の鱗を象った装飾煉瓦が土煙と共に崩れ落ちた、その瞬間。
ヒュオオォォォ……!!
まるで堰を切ったように、猛烈な突風が回廊を駆け抜けた。
長年停滞し、腐敗の匂いさえ孕んでいた重い大気が、気圧の落差によって一気に外部へと吸い出されていく。
砂埃は瞬時に換気され、私の結い上げた髪が生き物のように激しく煽られた。
熱を帯びて肌を苛だたせていた湿気が一掃され、代わりに中庭の木々が放つ、青く瑞々しい芳香を含んだ「冷気」が雪崩れ込んでくる。
「……あ、ああ、涼しい!」
「風だ! 風が通ったぞ!」
「生き返る……!」
作業を見守っていた女官たちから、祈りにも似た歓声が上がった。
彼女たちは両手を広げ、肺の奥までその清涼な酸素を吸い込んでいる。
汗で背中にへばりついていた薄絹の衣が風に孕み、熱中症で蒼白だった彼女たちの頬に、見る間に生命の赤みが差していく。
私は、瓦礫の向こうに開いた、切り取られたような矩形の青空を凝視した。
物理的な壁を排除することが、これほどまでに心理的な閉塞感をも打ち砕くとは。
(……気持ちいい。これが『カイゼン』の風ね)
私は手拭いを取り去り、肺が軋むほど深く、その新造された空気を吸い込んだ。
冷たい酸素が、熱暴走を起こしていた脳細胞を冷却し、思考の解像度をクリアに研ぎ澄ましていく。
吹き抜ける風が、私の頬に残った砂を浚っていく。
停滞していたこの国に、新しい力学が到来したことを告げる、確かな変革の息吹。
論理が因習を圧倒したその「勝利の余韻」が、風と共に私の全身を駆け巡っていた。
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