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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第2部『玉座の改革者』

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壁の崩壊、あるいは物理的風通しの改善

ガーン! ――ガーン!






大槌おおづち煉瓦(れんが)穿(うが)つ、臓器を直接揺さぶるような重く鈍い衝撃が、石床を伝って足裏から脳天へと突き抜ける。

尚功局(しょうこうきょく)から選抜された、汗で背中を光らせる屈強な職人たちが、私の指し示した「一点」に向けて、容赦なく変革の鉄槌(てっつい)を打ち下ろしていた。



舞い上がる赤茶色の砂塵(さじん)

それは汗ばんだ喉元にへばりつき、眼球の裏側をザラつかせる厄介な異物だ。

だが、手拭(てぬぐ)いで口元を覆う私の視界には、それが古い因習を焼き払う「狼煙(のろし)」のように映っていた。



一撃ごとに、百年以上も空気を殺し続けてきた分厚い壁に、(ほころ)びという名の「綻び」が走る。

それは単なる破壊ではない。

帝国の血管に詰まった血栓を取り除く、精密な外科手術に似た切実さを伴っていた。






ガラガラッ……ドサァァァッ! 



最後の一塊、龍の(うろこ)を象った装飾煉瓦が土煙と共に崩れ落ちた、その瞬間。



ヒュオオォォォ……!! 






まるで(せき)を切ったように、猛烈な突風が回廊を駆け抜けた。

長年停滞し、腐敗の匂いさえ(はら)んでいた重い大気が、気圧の落差によって一気に外部へと吸い出されていく。



砂埃は瞬時に換気(パージ)され、私の結い上げた髪が生き物のように激しく(あお)られた。

熱を帯びて肌を(いら)だたせていた湿気が一掃され、代わりに中庭の木々が放つ、青く瑞々(みずみず)しい芳香を含んだ「冷気」が雪崩れ込んでくる。



「……あ、ああ、涼しい!」



「風だ! 風が通ったぞ!」



「生き返る……!」



作業を見守っていた女官たちから、祈りにも似た歓声が上がった。

彼女たちは両手を広げ、肺の奥までその清涼な酸素を吸い込んでいる。



汗で背中にへばりついていた薄絹の衣が風に(はら)み、熱中症で蒼白だった彼女たちの頬に、見る間に生命の赤みが差していく。



私は、瓦礫(がれき)の向こうに開いた、切り取られたような矩形(くけい)の青空を凝視した。

物理的な壁を排除することが、これほどまでに心理的な閉塞感(ボトルネック)をも打ち砕くとは。






(……気持ちいい。これが『カイゼン』の風ね)



私は手拭いを取り去り、肺が(きし)むほど深く、その新造された空気を吸い込んだ。

冷たい酸素が、熱暴走を起こしていた脳細胞を冷却し、思考の解像度をクリアに研ぎ澄ましていく。



吹き抜ける風が、私の頬に残った砂を(さら)っていく。

停滞していたこの国に、新しい力学が到来したことを告げる、確かな変革の息吹。



論理が因習を圧倒したその「勝利の余韻」が、風と共に私の全身を駆け巡っていた。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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