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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第2部『玉座の改革者』

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所有権の確認、あるいは理性崩壊の刻印

肺の奥に眠っていた古い(ほこり)が、乱暴な衝撃と共に舞い上がった。



バフッ、という鈍い音。隠れ家である旧倉庫の、湿気を吸って重くなった寝台へ放り出された私の身体は、重力と加速のなすがままに深く沈み込む。





逃走経路を演算する(いとま)さえなかった。視界を塞いだのは、夕闇を切り裂くような赭黄(しゃこう)の質量。李宵(リ・ショウ)が、獣のような身軽さで私を圧し潰した。



至近距離で衝突した彼の(かお)は、冷徹な統治者としての均衡を完全に失っている。嫉妬という名の毒に冒され、剥き出しになった不安。その人間らしい揺らぎが、私の網膜を強く打った。




「……あの男を見たな」




「見てません! 向こうが勝手に……」




「触らせたな。……あの手で」




反論は、手首を寝台に縫い付ける鋼の握力によって封殺された。橈骨(とうこつ)が軋む、逃げ場のない圧力。



次の瞬間、張将軍の指が触れたはずのその場所に、熱い、皮膚を焼くような熱が押し当てられた。唇という名の、所有権を上書きするための刻印。



吸い付き、牙を立て、他者の残香を執拗(しつよう)に駆逐していくその野蛮な食感は、愛撫(あいぶ)という名の「債権回収」に他ならない。




「……お前は俺のものだ。髪の先も、指の爪も、その頭の中にある計算式の一つ残らず、すべて」




理性のタガが外れた指先が、私の襟元を強引に押し広げた。龍脳(りゅうのう)の香気が、彼の体温による熱分解を受け、清涼さを脱ぎ捨てていく。麝香(じゃこう)にも似た、本能を直撃する濃密な情熱。



その時、私の肌に触れる彼の肩が、微かに、けれど絶え間なく震えていることに気づいた。



耀(よう)の皇帝。最強の改革者。その実体は今、私という「唯一の理解者(アセット)」を失う可能性に、幼児のような恐怖を抱いている。その絶対的な脆弱(ぜいじゃく)さが、私の胸の奥に棲む監査役としての冷静さを、甘く溶かした。




(……馬鹿な人。コスト計算すらできていない)




私は抵抗を放棄し、自由になった左手を、彼の強張(こわば)った背中へと回した。私が軍へ移籍する? そんな不採算で非効率な選択肢、最初から存在しない。私の安住の地(聖域)は、この不器用で、独占欲の塊で、どうしようもなく私を必要とする男の隣にしかないのだから。




「……分からせてやる。誰が主人(CEO)か」




鼓膜を直接震わせる、背徳的な低音。それに答える代わりに、私は彼の首筋――脈打つ頸動脈(けいどうみゃく)の上へ、容赦なく歯を立てた。



龍脳(りゅうのう)の香りが、爆発的な熱量と共に部屋を支配する。それは、私からの「永久契約」の受諾。



理性の防壁が決壊する音がした。荒い呼吸音だけが、密閉された空間の酸素を奪い合う。私たちは互いの輪郭を溶かし合うように、深い闇の底へと()ちていった。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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