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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第2部『玉座の改革者』

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龍の逆鱗、あるいは所有権の主張

――ドスッ。



肉と肉がぶつかり合う鈍い衝撃音が、私の脳漿(のうしょう)まで揺さぶった。

視界を横切ったのは、目に刺さるような「赭黄(しゃこう)」の閃光(せんこう)






重厚な絹が空気を切り裂く鋭い音がした瞬間、私の両手を監禁していた(チャン)将軍の野性的な熱量が、強引に剥ぎ取られた。



「……誰の許可を得て、(ちん)の所有物に触れている」



地を()い、石畳を微震させるような低音。

私の首筋をなぞったのは、先ほどまでの芍薬(しゃくやく)の甘い香りではない。

急激な気圧の変化を伴った龍脳(りゅうのう)の、雨を(はら)んだような冷徹な芳香だ。






李宵(リ・ショウ)の瞳孔は、光を呑み込むブラックホールのように開ききっていた。

そこには知性という名の制御を失った、捕食者の青白い熱情だけが渦巻いている。



「所有物? 人聞きの悪い。彼女は才能ある軍師だ。皇帝陛下といえど、才能を飼い殺しにする権利はないはずですが?」



張将軍がたじろぎを消し、ニヤリと唇を吊り上げる。

対照的な二つの熱が、私の頭上で衝突し、火花を散らす。



「飼い殺しだと? ……笑わせるな」



私の右腕が、有無を言わせぬ質量で捉えられた。

橈骨(とうこつ)尺骨(しゃっこつ)(きし)むほどの圧力。



それは慈しむような抱擁(エンゲージ)などではない。

逃亡を物理的に封殺する、鋼の(ロック)の感触。



「この女は、俺の『半身』だ。……心臓であり、肺であり、脳だ。切り離せば、俺が死ぬ」



「は……?」



耳朶(じだ)に直接打ち込まれたその言葉は、私の培ってきたコンサルタントとしての論理(ロジック)を根底から粉砕した。



皇后でも、妻でも、愛人でもない。

生物学的な「維持に不可欠な臓器(バイタル・パーツ)」。

それは、いかなる対価(コスト)を積まれても譲渡不可能な、究極の独占宣言に他ならなかった。




張雲(チャン ユン)。お前がどれほど戦功を上げようと、この女だけはやらん。……いや、見ることさえ許さん」



言い捨てた瞬間、重力が反転した。

李宵の強靭な腕が私の腰と膝裏へ差し込まれ、視界が乱暴に回転する。






私の身体が軽々と宙に浮き、彼の胸板――堅牢(けんろう)な防壁のような熱に叩きつけられた。



「行くぞ、林鈴(リンリン)。……消毒が必要だ」



「ちょ、陛下!? 下ろして……!」



抗議は彼の赭黄の衣に吸い込まれ、一顧だにされない。

彼は大股で、御花園の柔らかな土を蹂躙(じゅうりん)するように歩き出す。



揺れる視界の端で、呆然(ぼうぜん)と立ち尽くす張将軍の姿が遠ざかっていく。

私は落ちないよう、必死に彼の首筋にしがみついた。



うなじから立ち上がる、激しい運動の後のような熱と、焦燥の入り混じった龍脳の匂い。

私の肋骨(ろっこつ)の裏で、早鐘を打つ心拍の振動。



それが恐怖によるものか、あるいは予測不能な「不規則事態(イレギュラー)」への高揚なのか。

今の私には判別する余裕など、微塵も残されてはいなかった。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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