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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第2部『玉座の改革者』

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熱波の到来、あるいは生命維持の限界点

鼓膜を裏側から突き破るような、凶器じみた(せみ)の絶叫。



それはもはや季節の情緒などではなく、熱せられた(やすり)脳漿(のうしょう)を直接削り取られるような、物理的な痛覚を伴っていた。



長安を襲った、記録破りの酷暑。

大気は酸素を失って粘着質な膜となり、呼吸のたびに喉の粘膜をじりじりと焼き焦がしていく。






隠れ家である旧倉庫。

私は厚手の衝立(ついたて)で窓からの直射を遮断し、尚食局(しょうしょくきょく)の「氷室(ひょうしつ)」から緊急調達させた巨大な氷柱を、部屋の四隅に配置していた。



氷の亀裂から「ピキッ」と乾いた悲鳴が上がるたび、そこから(あふ)れ出した冷気が、床を()う白濁とした霧となって視界を覆う。



(……計算不能。……業務継続、困難)



私は床に敷き詰められた、新調したい草()の上で、大の字になって伸びていた。



首筋から背中にかけて、不快な汗がじわじわと(にじ)み、着慣れた緑衣の薄絹を皮膚に貼りつかせる。

指先を動かせば、上腕の筋肉が泥のように重く、神経の伝達速度が著しく低下しているのが分かった。



中央に設置した特注の「羽車(ファン)」。

女官が手回しで送る風は、氷の表面を(かす)めて私の頬を叩くが、それさえも今の私には「体力を削り取る摩擦」でしかなかった。






窓の外。

(ゆが)んだ陽炎(かげろう)の向こう側では、石畳が熱を蓄積し、卵を落とせば瞬時に白く固まるだろう。



重い(よろい)(まと)った巡邏(じゅんら)衛士(えじ)たちが次々と熱中症で脱落していくという報告は、私の脳内で「人的資源の深刻な減価償却」として処理されていた。



(……本日の私の全リソースは、生命維持活動に全振りします)



思考のシャッターを強制的に下ろす。

普段なら瞬時に弾き出せる収支計画も、今は熱に浮かされた数字の残像に過ぎない。



溶け出した氷が受け皿の底を「ト、ト……」と不規則に叩く。



その冷徹なメトロノームだけが、(から)うじて私の理性を、灼熱の奈落から繋ぎ止めていた。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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