熱波の到来、あるいは生命維持の限界点
鼓膜を裏側から突き破るような、凶器じみた蝉の絶叫。
それはもはや季節の情緒などではなく、熱せられた鑢で脳漿を直接削り取られるような、物理的な痛覚を伴っていた。
長安を襲った、記録破りの酷暑。
大気は酸素を失って粘着質な膜となり、呼吸のたびに喉の粘膜をじりじりと焼き焦がしていく。
隠れ家である旧倉庫。
私は厚手の衝立で窓からの直射を遮断し、尚食局の「氷室」から緊急調達させた巨大な氷柱を、部屋の四隅に配置していた。
氷の亀裂から「ピキッ」と乾いた悲鳴が上がるたび、そこから溢れ出した冷気が、床を這う白濁とした霧となって視界を覆う。
(……計算不能。……業務継続、困難)
私は床に敷き詰められた、新調したい草の上で、大の字になって伸びていた。
首筋から背中にかけて、不快な汗がじわじわと滲み、着慣れた緑衣の薄絹を皮膚に貼りつかせる。
指先を動かせば、上腕の筋肉が泥のように重く、神経の伝達速度が著しく低下しているのが分かった。
中央に設置した特注の「羽車」。
女官が手回しで送る風は、氷の表面を掠めて私の頬を叩くが、それさえも今の私には「体力を削り取る摩擦」でしかなかった。
窓の外。
歪んだ陽炎の向こう側では、石畳が熱を蓄積し、卵を落とせば瞬時に白く固まるだろう。
重い鎧を纏った巡邏の衛士たちが次々と熱中症で脱落していくという報告は、私の脳内で「人的資源の深刻な減価償却」として処理されていた。
(……本日の私の全リソースは、生命維持活動に全振りします)
思考のシャッターを強制的に下ろす。
普段なら瞬時に弾き出せる収支計画も、今は熱に浮かされた数字の残像に過ぎない。
溶け出した氷が受け皿の底を「ト、ト……」と不規則に叩く。
その冷徹なメトロノームだけが、辛うじて私の理性を、灼熱の奈落から繋ぎ止めていた。
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また明日[19:00]にお会いしましょう。




