表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第2部『玉座の改革者』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/121

予期せぬ外部監査、あるいは深夜の緊急召集

指の間を滑り落ちる髪の感触が、湿り気を失って軽くなる。

李宵(リ ショウ)は満足げに象牙の櫛を置くと、背後から私の腰を包み込むように腕を回した。






彼の胸板の厚みが背中に密着し、逃げ場のない熱量が白絹の単衣(ひとえ)を通して伝わってくる。

岩盤のように堅牢な彼の骨格に、私の身体がすっぽりと収まり、物理的な「占有」を完了させていた。



「……良い匂いだ」



耳朶じだを掠める掠れた低音が、うなじの産毛を震わせる。

深い龍脳(りゅうのう)の香気が、私の身体から立ち上る清潔なサボンの残香を強引に上書きしていく。



それは、緻密(ちみつ)に計算された「定時退社」という報酬さえも(かす)ませる、高密度の残業――二人きりの時間プライベート・アライアンス

私は彼の腕に自分の指を重ね、その強靭な(てのひら)の熱を、自らの血流へと同期させていった。



このまま、思考のスイッチを切ってしまいたい。

帳簿の矛盾も、不採算(ふさいさん)な派閥争いも、すべては対岸の火事でしかないはずだった。



ゴロゴロ……。



不意に、床板を通して内臓を揺さぶるような低周波が響いた。

地鳴りではない。

漆黒に塗り潰された窓の向こう側で、稲光(いなびかり)が一瞬だけ長安の空を切り裂き、不吉な青白い輪郭を浮かび上がらせる。







私の背中に触れていた李宵の筋肉が、瞬時に鋼のような硬度へと変質した。

彼もまた、直感したのだ。

甘い密会オフタイムの終了を告げる、致命的な「市場の変動」を。




「……陛下」



「……ああ。分かっている」



廊下の彼方から、石床を叩く慌ただしい足音が、鋭いノックの音へと収束した。

ドンドン! 

静寂を物理的に破壊する、無遠慮な衝撃。




「申し上げます! 急報です!」






扉越しに響く、喉を掻き切るような宦官(かんがん)の切迫した声。



「西方より、神策軍しんさくぐん大将軍・チャン殿が帰還されました! 軍を引き連れたまま、直ちに謁見(えっけん)を求めておられます!」



張将軍――神策軍。

皇帝直属でありながら、時にその権力を脅かす「最強の暴力(アセット)」の名が出た瞬間、私の肩に預けられていた彼の甘い熱は霧散した。



李宵の瞳から揺らぎが消え、絶対君主としての「赭黄(しゃこう)」の温度へと、冷徹に切り替わっていく。



嵐が、来る。




私は乾いたばかりの髪を指先で強く握りしめ、鏡の中に映る、唇を噛み締めた異邦人のような自分の顔を、ただ見つめ返すことしかできなかった。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ