表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第2部『玉座の改革者』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/120

湯上がりの訪問者、あるいは夜風の甘い予感

湯上がり特有の、身体の内側から膨れ上がるような熱が、薄い白絹の単衣(ひとえ)を緩やかに押し上げている。

窓から滑り込んできた夜気が、火照(ほて)った首筋を撫でるたび、皮膚の表面で細かな水分の粒子が冷やされていく。



湿り気をたっぷりと吸った長い黒髪が、背中にずっしりとした重みを伝えていた。

女官たちを下がらせ、一人、長椅子に深く身を沈める。

静寂が部屋の隅々にまで行き渡ろうとした、その時。






夜風の温度が、一瞬だけ変わった。

肺の奥をくすぐるのは、雨上がりの深い森を思わせる、あの清涼でいて執拗(しつよう)龍脳(りゅうのう)の香り。



コン、コン。



規則正しく、けれど私の防衛本能(プライバシー)の境界線を容易く踏み越える、確固たる意志を持ったノックの音。



「……林鈴(リン リン)。入っても良いか?」



「陛下!? ……どうぞ」



扉の蝶番(ちょうつがい)が微かな音を立て、平服を(まと)った李宵(リ ショウ)が姿を現した。



私の姿――緩んだ襟元から(のぞ)く無防備な肌と、(したた)(しずく)で色を変えた絹の質感に彼の視線が触れた瞬間。



黄金の瞳が、冬の星のような鋭さから、春の陽光に焼かれる粘土のような、熱を帯びた色調へと変質する。



その視線には、不快な卑しさはない。

ただ、帝国で最も価値のある資産を(いつく)しむような、静謐(せいひつ)な熱だけがあった。



湯浴(ゆあ)みをしたのか。……良い匂いだ」



「ええ、おかげさまで生き返りました。陛下も、もう公務は終わりですか?」



「ああ。……だが、お前に会わねば、一日が終わった気がしなくてな」



彼は淀みのない動作で私の隣に腰を下ろした。

一気に縮まる距離。

乾燥した上等な衣の匂いと、私の身体から立ち上る、湿り気を帯びた石鹸の香りが、空間の酸素を奪い合うように混ざり合っていく。



私は反射的に、手元のタオルで髪を隠そうとした。

監査役という仮面(メイク)()ぎ取った、無防備すぎる素顔。

それを(さら)すことに、計算外の動悸(どうき)が走る。



けれど、李宵の大きな(てのひら)が、そのタオルを指先から優しく、しかし(あらが)いようのない力で奪い去った。



「……貸してごらん。濡れたままでは、風邪を引く」



「自分でできます。これは業務外です、陛下」



「俺にとっては、これも重要な『妻の管理業務メンテナンス』だ。……じっとしていろ」






有無を言わせぬ響きと共に、彼は私の背後へと滑り込んだ。

あぐらをかいた彼の(ひざ)の間に、私の身体がすっぽりと収まる。

背中越しに伝わってくる、彼の岩盤のような胸板の厚みと、剥き出しの体温。



ワシャワシャ、と。

大きな手が、タオル越しに私の頭を丸ごと包み込んだ。



不器用なほど力がこもっているのに、髪の根元を撫でる指先は驚くほど繊細だ。

誰かに自分の身体の一部を完全に委ねる。

その徹底的に無防備な状況が、心拍の振動を増幅させ、私の理性を甘い泥の中に沈めていった。

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ