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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第2部『玉座の改革者』

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発芽の予感、あるいは契約外の育成義務

残光は完全に地平に呑み込まれ、一番星が針の先で突いたような鋭い光を、藍色の天幕に灯し始めていた。



肩を圧迫していた重みが、ふっと消失する。

一刻――およそ三十分の間、私の身体を支柱にして微睡(まどろ)んでいた李宵(リ・ショウ)が、ゆっくりと上体を起こした。



「……充電完了だ」



耳朶(じだ)を叩くのは、仮面を被り直した男の、冷徹で揺らぎのない低音。

彼は一度も振り返ることなく、赭黄(しゃこう)の衣を夜風に翻して去っていった。



後に残されたのは、衣服越しにじりじりと焼けるように残る彼の体温の余韻と、血流が戻り始めて(しび)れを訴える私の左肩の感覚だけ。




私は、急速に冷却されていく大気に身を縮め、彼が座っていた庭石の傍らに膝をついた。

懐から取り出したのは、油紙に包まれた小さな塊。

指先を差し入れると、ザラりとした不揃いな種の感触が、(てのひら)の熱を奪っていく。



指先で土を数センチほど穿(うが)ち、一粒ずつ、丁寧にその穴へ落とす。



パラ、パラ……。



乾燥した種が土底を叩く微細な音が、虫の音さえ途絶えた静寂に吸い込まれる。




これは当帰(トウキ)の種だ。

血を補い、巡りを最適化し、内側から熱を産生させる生薬。

末端冷え性の自覚がある私にも、そして、慢性的な睡眠不足と重圧で生命力を摩耗させているあの男にも、等しく必要なリソース。



「……水くらい自分で飲む、ね」



喉の奥から、乾いた笑いが漏れた。

あんなに手のかかる、規格外に巨大な「植物」を、野放しにしておけるはずがない。



剪定(せんてい)のタイミングも、枝葉の剪定()も、日照時間の管理も。

私が全人的なマネジメントを放棄すれば、あの男は自らの毒――孤独で根腐れを起こすか、あるいは内側から枯死してしまうだろう。



湿った黒土を優しく被せ、手のひらで圧をかける。

トントン、と土を固めるリズムは、先ほど彼の後頭部を撫でた際の、あの頼りないほど柔らかな感触を指先に呼び起こした。



私たちの関係は、もはや紙の上で結ばれたドライな契約の域を逸脱している。

この庭の土壌の下で、目に見えない根が、複雑な幾何学模様を描きながら確実に絡み合い始めている。




(……貴方を枯れさせたりはしません。皇帝陛下)



泥の粒子が食い込んだ自分の指を見つめ、無機質な夜空に向かって、声にならない思考を放つ。

それは、監査役としての職責を超え、私自身が私の魂に下した、逃れようのない「新規業務命令」に他ならなかった。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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