緑の開拓者、あるいは土壌改良プロジェクト
ザクッ、……ザクッ。
ザクッ、……ザクッ。
湿った黒土を刃が断ち切る一定の振動が、掌から手首、そして肘の骨を伝って肩へと這い上がってくる。
その鈍い衝撃の反復が、いつしか私の心拍数と完全に同期していた。
額の生え際から噴き出した汗が、重力に従ってこめかみを滑り落ちる。
顎先に溜まった雫りが、熱を帯びた大地へと滴り落ち、乾いた土の粒子を黒くにじませた。
作業開始から二刻――約四時間。
当初、泥汚れを嫌って指先を震わせていた女官たちも、今では袖を捲り上げ、一心不乱に地中の根を掘り起こしている。
土の裂け目からミミズが這い出すたびに上がる悲鳴は、もはや恐怖ではない。収穫祭を待つ熱狂に近い響きを帯びていた。
「……ふう」
私は鍬の柄に、じりじりと焼けるような掌を預け、肺の底にある熱を吐き出した。
鼻腔を満たすのは、腐敗した夏草の不快な生臭さではない。
空気に触れて目覚めたばかりの、潤んだ黒土の豊潤な香気だ。
上腕の筋肉が、痙攣に近い悲鳴を上げている。
けれど、この重い疲労こそが「実在」の証だった。
薄暗い書庫で帳簿の数字という虚像を追い続けて溜まった精神的な澱が、毛穴という毛穴から吹き出す汗とともに、土の中へと濾過されていく。
「……強い子ね」
私は膝をつき、泥に汚れた指先でその小さな実をそっとなぞった。
ふと、視界の端で鮮烈な赤が揺れた。
踏み荒らされた雑草の影に潜むように、野生の枸杞が実を付けている。
剪定も施肥も受けず、この硬直した土壌で独自の生存戦略を貫き、結実まで漕ぎ着けた生命の質量。
それは、この巨大なブラック企業――後宮の片隅で、静かに牙を研ぎ続ける私たち女官の背中を肯定しているようだった。
カサリ、と。
風に混じって、上等な絹が擦れる音が回廊の方から届いた。
顔を上げれば、通りかかった数名の高官たちが、泥にまみれた私を見下ろし、金箔の施された扇子で口元を覆っている。
『……あれが、例の新しい皇后陛下か?』
『なんとも野蛮な。土を弄るなど、卑しき下女の仕業だろうに』
鼓膜をなぞる、棘を含んだ嘲笑。
けれど、私の心拍は一拍も乱れなかった。
鍬を握る指先に、さらに確かな力を込める。
(……野蛮? 笑わせてくれるわ)
彼らが握る筆や笏は、この国の一粒の米も、一滴の薬も生み出さない。
土に触れ、根を育て、生命のサイクルを回すこと。
その実業がどれほど人間の精神を強固に最適化し、明日への活力を生産するか。
政治という名のROIの低い虚業に、命を削る彼らこそ、この鍬の重みを知るべきなのだ。
私は彼らの冷笑をノイズとして処理し、再び目の前の土塊へと視線を落とした。
私の戦場は、あの澱んだ朝廷ではない。
今、私の足下にある、この生産的なフロンティアなのだから。
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