死んだ庭、あるいは休耕地の有効活用
立政殿の中庭。
かつては歴代皇后の威光を具現化するため、西域から運ばれた牡丹や白桃が贅を競ったとされる「天上の楽園」。
だが、今私の網膜を占拠しているのは、そんな雅やかな呼称とは無縁の、生存本能だけが肥大化した荒野だった。
孕んだ夏草が、執拗に足首に絡みつき、歩みを進めるたびに絹の靴を緑色の汁で汚していく。
干上がった池の底には、泥が亀の甲羅のようにひび割れ、不気味な幾何学模様を晒していた。
「……ひどいものですね。完全に管理放棄されています」
私は、尚服局から回収したリネンの端切れを使い、即席で作成した手甲を締め直した。
指先で土を蹴る。
乾いた表面とは裏腹に、内部は通気性を失い、沈黙の重力で石のように凝り固まっている。
土壌の劣化――この宮殿が抱える「放置された負債」そのものだ。
背後で控える若い女官たちの、心許ない衣擦れの音が届く。
「林様……いえ、皇后様。本当にここを耕すのですか? 庭師を呼べば……」
「庭師の手配には申請から三ヶ月かかります。そんな悠長な稟議を待っていたら、植え付けの時期を逃してしまいますよ」
私は、納屋の隅で眠っていた錆だらけの鍬を掴んだ。
手のひらに伝わる、ザラついた鉄の粒子と、ずっしりとした金属の質量。
この空間をただの「観賞用」として遊ばせておくのは、あまりにROIが低すぎる。
私の構想では、ここは尚食局のサプライチェーンと直結した、実務的な「薬草園」へとコンバートされる。
枸杞、当帰、甘草。
これらは滋養強壮や解毒の要であり、慢性的な過労状態にある官僚組織や、何より激務の極みにある皇帝陛下の健康管理における戦略的リソースだ。
市場調達コストを削減し、万が一の疫病流行時における自給率の確保――いわば、後宮のBCPの策定。
(……それに、何より)
視界を埋め尽くす、無秩序な緑の海。
この混沌を、私のロジックで一から整理し、生産的なシステムへと作り変える。
そのプロセスを想像するだけで、指先が微かな熱を帯び、心拍が心地よく跳ねるのを感じる。
「さあ、始めましょう。……まずはこの不法占拠者(雑草)たちを、根こそぎ立ち退かせますよ」
ザクッ、と。
鋭い衝撃が鍬の柄を伝い、腕の骨を震わせ、脳天まで突き抜けた。
硬直していた大地が、ようやく呼吸を始めた音がした。
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