マーキング・リピート、あるいは家賃の現物支給
冬冬――、冬冬――。
腹の底を震わせる街鼓の残響が、完全なる夜禁の訪れを告げる。
この音が止めば、長安は巨大な沈黙の檻となり、物理的な移動はすべて「罪」へと変換される。
結局、彼は帰らなかった。
私が設計したはずの広大な寝台は、今や二人の体温が複雑に混ざり合い、熱の飽和状態に陥っている。
李宵は当然の権利を主張するように中央を占拠し、私は彼の強靭な腕の檻に閉じ込められたまま、酸素の薄い熱波の中にいた。
(……なぜ、この不採算案件が継続されているのか)
背後から絶え間なく伝わる、岩盤のような胸板の厚みと、低く規則正しい鼓動。
振りほどこうと身じろぎするたび、腰に回された腕の出力が一段階引き上げられ、シーツの絹が肌を擦る音が深夜の静寂に高く響く。
彼の腕は、最高級の真綿よりも密度が高く、逃げ場を許さない「温かな拘束具」そのものだ。
「……ん……行くな、鈴」
湿った呼気が首筋をなぞり、鼓膜を直接震わせた。
掠れたその響きには、昼間の冷徹な改革者としての威厳は欠片も残っていない。
あるのはただ、温もりを求めて他者を侵食しようとする、剥き出しで脆弱な執着。
私は抵抗を放棄し、龍脳の香りが色濃く漂う彼の胸元に、額を沈めた。
雨上がりの森を思わせるその香気が肺を満たすたび、張り詰めていた監査役としての防衛本能が、砂の城のように崩れ去っていく。
ここは私の城だが、李宵という巨大な軍事力(防壁)なくしては成立しない。
この添い寝という名の肉体的な「現物支給」は、聖域の安全保障を維持するための、妥当なランニングコストに過ぎないのだ。
「……明日は、もっと広い寝台を発注しろ」
夢うつつの中で、熱い指先が私の髪をひと房掬い上げる。
その蕩けるような、けれど拒絶を許さない不文律に対し、私は返事をする代わりに、静かに目蓋を閉じた。
意識が暗転していく。
心拍数だけが、夜の帳の中で不規則に跳ね続けていた。
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また明日[19:00]にお会いしましょう。




