施主の最終確認、あるいは寝台の占有率100%への宣告
真新しい青銅の燭台で、炎が小さく爆ぜた。
オレンジ色の光が、昼間の殺風景な空気を塗りつぶし、部屋の隅々に濃密で湿度のある影を落としている。
私は、視界の半分を占拠する紫檀の重厚なフレームを見下ろしていた。
厳選された羊毛と真綿を、密度の計算に基づき幾重にも重ねた積層構造。
身体の沈み込み――沈下率を数ミリ単位で制御し、体圧を均等に分散させる――。
この時代の工芸と、私の知る人間工学が融合した、最高級の納品物だ。
「……悪くないな」
鼓膜を直接、低周波の振動が震わせた。
肺が、一瞬だけ酸素を求めるのを忘れる。
振り返れば、いつの間にか音もなく侵入していた李宵が、寝台の縁に腰を下ろしていた。
彼が掌を押し込むたび、真綿が微かな摩擦音を立てて抵抗し、その反発力が質の高さを証明している。
「陛下……。ノックくらいしてください。ここは私のプライベートエリアです」
「お前のエリアは俺のエリアだ。……それに、施主は俺だろう?」
赤みの強いオレンジ――赭黄の上着が、無造作に足元へ脱ぎ捨てられた。
薄い白の単衣から剥き出しになった鎖骨が、揺れる灯火を跳ね返して白く浮き上がっている。
その隙のない造形は、見る者の理性を一方的に蹂躙する「静謐な凶器」そのものだ。
私は、最前線へ進む兵士のような警戒心で、彼と数インチの距離を空けて腰を下ろした。
ふわり、と腰から下が沈み込む。
計算通りの適度な反発力。
けれど、隣に座る男の、私とは比較にならない圧倒的な質量が加わることで、物理の法則に従い、私の重心は抗いようもなく彼の方へと傾いていった。
「……快適ですね。これなら、腰への負担も軽減されるはずです」
職業的な冷徹さを装い、震えそうになる声をどうにか繋いだ。
しかし、その論理的な報告は、強靭な腕が私の腰を掠め、強引に引き寄せた瞬間に霧散した。
硬い胸板に、私の頬が強制的に接触させられる。
「ああ、快適だ。……だが、少し広すぎるな」
顔が近づく。
雨を含んだ森の匂い――龍脳の香気が、新しい木材の匂いを塗りつぶし、私の思考回路を甘い毒のように麻痺させていく。
「一人で寝るには寂しいだろう。……俺が埋めてやろうか?」
耳朶に直接吹きかけられる、低いバリトンの振動。
それは、相談でも打診でもない。
この新設された城の「占有権」を、ただの男としての熱を持って奪い取る、絶対的な占有宣言だった。
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