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【完結】皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第2部『玉座の改革者』

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呪われた宮殿、あるいは換気不良の不良資産

鼻腔の奥にへばりつくのは、湿気を吸って粘り気を帯びた古紙の匂い。

そして、長年放置された藺草(いぐさ)が芯から腐敗した、鼻の裏側を逆撫でするような()えた臭気だ。



ギィィィ……。

耳朶を刺す乾いた悲鳴を上げ、重厚な朱塗りの扉が、蓄積した(ほこり)の抵抗を受けながらゆっくりと開く。



立政殿(りっせいでん)

歴代の皇后が主を務めるはずのその空間は、いまや帝国の心臓部に口を開けた、光を拒絶する「巨大な廃墟」と化していた。



「……林様、本当にお入りになるのですか? ここは先帝の皇后様がご崩御されて以来、誰も寄り付かない場所でして……」



背後から届く女官の囁きが、肺の底から絞り出されたように震え、空気を波立たせる。

彼女たちの怯えた瞳の先――広間の奥で揺らめいているのは、天井から垂れ下がり、埃の重みで歪んだ呪除けの札だ。



私は、掌を舞い踊る埃の粒子で汚しながら、熱を失った石床へと踏み込んだ。

ひんやりとした冷気が、足袋(たび)の薄い布地を透過し、足裏の体温を一瞬で奪い去っていく。



(……なるほど。これはひどい)



私の網膜が検知したのは、怨念の影ではない。

ただの、圧倒的な「メンテナンス不足」という名の、放置された負債だ。



窓はすべて厚い板で打ち付けられ、太陽の光はわずかな隙間さえ見つけられずに死んでいる。



空気は重く、喉の奥に(よど)みが張り付く。

湿度は肌が湿るほどに飽和しており、これでは漆の柱さえカビの苗床(なえどこ)になるのは自明の理だ。



壁に幾重にも貼られた護符や魔除けの布。

それが埃を吸着するフィルターとなり、換気をさらに悪化させている。



「……幽霊が出るのも納得ですね。こんな換気不良でカビだらけの環境にいたら、誰だって呼吸器をやられて幻覚を見るでしょう」



私は、肺に詰まる澱んだ空気を吐き出し、閉ざされた高窓を見上げた。

そこから漏れ出る、針の先ほどの鋭い光だけが、暗闇の中で激しく乱舞する埃を白く浮き彫りにし、この空間のボトルネックを無言で告発している。



「まずは全開放です。窓も、扉も、すべての通気口を開けなさい。……魔除け? 全部廃棄(スクラップ)です。オカルトで湿気は取れません」



女官たちが喉を鳴らし、息を呑む音が重なる。

けれど、私の足取りは止まらない。



ここはこれから、私のオフィスとなる場所だ。

過去の腐敗が巣食う不良資産のまま、放置しておくなど論理が許さない。



私は袖を(まく)り上げ、埃まみれの円柱に手をかけた。

指先に残る、ざらりとした砂の感触。




それは、これから始まる大改修(リノベーション)という名の戦いへの、確かな手応えだった。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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