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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第2部『玉座の改革者』

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緋色の監禁、あるいはキャリアの強制終了

真綿(まわた)(おり)に、全身を(から)め取られていた。



吸い付くような粘り気を持つ、最高級の正絹(しょうけん)。指先を動かせば、皮膚の水分を奪うような滑らかさが指間にまとわりつき、逃げ場のない質量が寝台の奥へと身体を沈み込ませる。



目蓋(まぶた)を持ち上げる動作さえ、鉛の重石(おもし)を引きずるような抵抗を伴った。




視界が(ひら)けた瞬間、網膜を焼き切るような、苛烈なまでの「()」が飛び込んできた。



視界の端から端までを埋め尽くす、天蓋(てんがい)の布地。

官舎の低い天井とは比較にならない、遥か高みに位置する建築的空間――権力の重力グラビティが最も色濃く(よど)む、帝国の心臓部。




遠くで、香炉から立ち昇る龍脳(りゅうのう)の、仄かに湿った雨のような匂いが鼻腔を突く。

静寂を裂くのは、外の喧騒ではなく、衣擦(きぬず)れの微かな音だけ。



(……ああ。監査、失敗)



思考の端々に、昨夜の残像がフラッシュバックする。

赭黄(しゃこう)の衣を(まと)った李宵(リ ショウ)が、有無を言わせぬ体温で私の手首を掴み、公衆の面前で下した「死刑宣告」とも呼べる宣言。



「彼女こそが、(ちん)の選んだ唯一の伴侶である」



私はゆっくりと、(きし)む背骨を押し上げるように上半身を起こした。

視界の隅に、昨日までの私を定義していた「機能的な緑衣」の姿はない。



代わりに枕元に鎮座していたのは、金糸で鳳凰(ほうおう)執拗(しつよう)なまでに刺繍された、重厚な緋色の唐衣(からぎぬ)だった。

細かな刺繍が光を乱反射させ、鋭利な刃物のような輝きを放っている。



それは装束などではない。

私という個人の実務能力を封殺し、「皇后」という名の静止した象徴シンボルへ固定するための、煌びやかな拘束具。



「おはようございます、林様。……いえ、皇后陛下」



(とばり)の向こう側から、氷を()み砕いたような冷徹な聲音(しょうね)が降った。



女官たちの声。

敬語の皮を(かぶ)りつつも、そこには私の意思決定権プレゼンスを一切認めない、強固な「システム」としての圧力が宿っている。




(……詰んだわ)




脳内で、これまで緻密に積み上げてきたキャリアプランが、音を立てて灰に変わる。



三十歳での早期退職リタイア

地方への資本移転と、誰にも干渉されない自立した生活。



あの完璧だった出口戦略エグジット・プランは、昨夜の「敵敵的買収」によって一瞬で白紙へと書き換えられた。



私は、冷えた自分の膝を抱え込んだ。



最高級の絹が肌を撫でるたび、二十四時間三百六十五日、あの美貌の独裁者(皇帝)に所有され、死ぬまで「公務」という名の無給残業を強いられる未来が、重い鎖となって首筋に食い込んでくる。



喉の奥が、砂を呑み込んだように乾いている。



私は、用意された緋色の衣を、人生最大の「不良在庫」を検品するような冷めた目で(にら)みつけた。

お待たせいたしました、プロジェクト再開です!

第二部からは、逃げたい鈴と、逃がさない李宵による「独占契約」を巡る攻防が激化します。


陛下が理性をデバッグしきれず、独占欲を暴走させる姿をぜひお楽しみください。 引き続き、毎日[19:00]に安定稼働でお届けします。


「いいね」や「評価」が積み重なると、物語の糖度が予定よりアップする……かもしれません。

ステークホルダーの皆様、何卒よろしくお願いいたします!

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