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【完結】皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第1部『隠れ家の監査役』

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聖域の定義、あるいは玉座へのヘッドハンティング

視界のすべてが、暴力的なまでの色彩に塗り潰された。

皇帝専用色、赭黄(しゃこう)


周囲に渦巻いていたはずの嘲笑のノイズは、今や完全に消滅していた。

残されたのは、既存のシステムでは解釈不能な事態に対する、根源的な恐怖と――逃げ場のない、凍りついた沈黙だけだ。


「……顔を上げろ、林鈴(リン・リン)


頭上から降ってきたのは、耳慣れた低いチェロのような重低音。

けれど、あの隠れ家で微睡んでいた際の甘い残響はない。

絶対君主としての威厳が凝固した声だ。


私は、石床に張り付いていた額を恐る恐る持ち上げた。


逆光の中に、李宵(リ・ショウ)が立っていた。

王冠を戴き、人間離れした造形美を見せつけるその姿は、異界の神そのもの。

だが、私を射抜く黒曜石の瞳だけは、あの捕食者の、峻烈(しゅんれつ)な熱を宿していた。


「……陛下。……場所を、お間違えでは……」


私の喉は砂漠のように乾き、絞り出した声は空気の震えにすらならなかった。

李宵(リ・ショウ)はフッと口角を上げ、氷山を融かすような密やかな弧を描く。


「間違えてなどいない。……俺がずっと探していたのは、ここだ」


彼はゆっくりと、拒絶を許さない速度で手を伸ばした。

そして、私の髪の中で月光を吸い込んでいた「羊脂白玉(ようしはくぎょく)」の簪に、慈しむように触れた。


指先から伝わる、石のひやりとした冷徹さと、彼の体温の熱。

二つの相反する触覚が混ざり合い、私の脳内回路を激しくかき乱す。


「よく似合っている」


その一言が、静止した大広間に雷鳴となって(とどろ)いた。


カラン……。


遠く、誰かの指先から滑り落ちた象牙の扇が、石床で乾いた音を立てる。

それが、不文律という名の契約が「確定」した合図だった。


李宵(リ・ショウ)は簪から指を滑らせ、私の頬の熱を(かす)めるようにして、その大きな掌で私の右手を包み込んだ。

逃げ場はない。


「立て」


引かれるままに、私は膝を突いていた石床から浮上した。


くすんだ「緑」の衣を纏った雑草の私が、極彩色に輝く「赭黄」の太陽と肩を並べる。

本来なら同一の空間に存在することすら許されない、価値基準の断絶。


けれど、彼が私の指を節が白くなるほど強く握りしめた瞬間、その格差は物理的に消滅した。


彼の瞳孔には、もはや私という個体しか映っていない。

周囲を埋め尽くす数千人も、この瞬間、ただの動かない背景ノイズへと成り下がった。


「行こう。……お前の席は、ここではない」


李宵(リ・ショウ)は、私の手を引いて力強く歩み出した。

雑草の茂みだと思っていた「緑の海」が、裂けるようにして道を空ける。


ああ、終わったのだ。


「有能な傍観者」として、安全圏から世界を監査していた私の平穏なキャリアは、今この瞬間、不可逆に終了した。


覚悟を決めろ、林鈴(リン・リン)

これが、お前が自らロジックを暴き、そして選ばれてしまった――世界で最も過酷で、最も甘美な「修羅場」なのだから。

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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