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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第1部『隠れ家の監査役』

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進軍、あるいは緑の海の分水嶺

静寂。


地響きのような太鼓の音が止んだ瞬間、広大な含元殿から一切の周波数が消えた。

数千人が同時に肺の機能を停止させたかのような、完全なる真空状態。


その凍りついた空気を切り裂いて、重厚な絹が擦れ合う音だけが近づいてくる。


シャラ……シャラ……。


私は石床に額を押し当てたまま、冷たい石目に映る微かな影を見つめていた。

本来、この帝国のCEO(最高経営責任者)は、中央に敷かれた紅い御道を通り、最短距離で最上段の玉座へと至るはずだ。

それがもっともROI(投資対効果)に優れた動線設計なのだから。


だが。


石床を打つ足音のリズムが、明らかに設計図を逸脱していた。

迷いのない規則正しい響きは、直角に折れ、こちら側――不採算部門である妃嬪たちが並ぶ左翼エリアへと侵入してきた。


(……え?  動線変更?  事前の香盤表プログラムに、こんなイレギュラーな歩法はなかったはず……)


顔を上げることは許されない。

だが、皮膚が感知する「質量」で分かる。

この世の全権力を凝縮したような、圧倒的な熱量を持った「何か」が、確実にこちらへ迫っている。


前方、紫の衣を纏った「大株主」たちのエリアから、期待に震える吐息が漏れるのが聞こえた。

彼女たちは入念に施した化粧パッチを上げ、太陽の視線を待ちわびている。


けれど、足音は止まらない。

彼女たちの存在を背景ノイズとして処理するように、一瞥もくれず通り過ぎていく。


――ザッ。

――ザッ。


足音が一歩近づくたびに、周囲の空気が絶対零度へと急速に冷却されていくのが分かった。

特権階級の「紫」を抜け、中堅層の「緋色」を蹂躙し。


そして、ついに。


「緑色エリア」――私たち、使い捨ての下級妃嬪の群れへと、その「絶対者」が足を踏み入れた。


あり得ない。

天空の太陽が、道端の雑草を照らすために地上へ降りてくるなど。

騒めきという名の波紋が広がり、緑の衣を着た女たちが、何らかの巨大な力に押し流されるように左右へと割れていく。


(……嘘でしょ。こっちに来ないで。システムを壊さないでよ……)


私の心拍数が、計測不能な領域まで跳ね上がる。

これは明確な標的をロックオンした「進軍」だ。


そして。


視界の端、石床の冷たさを上書きするように。

赤みを帯びた鮮烈なオレンジ――赭黄(しゃこう)の衣の裾が、私の目の前で、冷徹に静止した。

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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