契約終了、あるいは終身雇用の誓印
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すぅ、すぅ……。
肺の奥から漏れる、寄せては返す波打ち際のような穏やかな律動。
腕の中に沈み込むのは、逃げ場を失い、熱を帯びた「柔らかな質量」。
「……ふっ、隙だらけだな」
俺は彼女の背中を、折れぬよう慎重に支えたまま、その黒髪へと指を滑らせた。
髪筋の中に、一箇所だけ冷たい月光を固定したように青白く発光する塊がある。
羊脂白玉。
この帝国の頂において、龍の隣に座る者のみに許された、至宝という名の楔。
彼女はこれを、単なる報酬として受理した。
だが、明日。これを頭上に掲げて宴の場に現れた瞬間、彼女という存在は「皇帝の女」として全臣下の網膜に再定義される。
「契約終了、だと?」
独り言が龍脳の香りに混じり、彼女の耳朶を熱くかすめる。
俺は、無防備に晒された彼女の額に、血肉を分かつ誓印を刻みつけるように唇を押し沈めた。
熱い。
彼女の体温が、長年の孤独で凍てついていた俺の芯を、音を立てて融解させていく。
「残念だったな、林鈴。……これは契約満了ではない」
窓の格子越しに、黎明の青い光が侵食してくる。
夜禁が明け、彼女が忌み嫌う「公務」という名の重力が戻りつつあった。
「『永久就職』だ。……死ぬまで、俺のそばで働いてもらうぞ」
俺は彼女を抱き上げ、寝台の重厚な沈香の香りの中へと横たえた。
彼女は無意識の生存本能か、俺の赭黄の袖を、指先が白くなるほど強く掴んだ。
その感触は、どんな羊皮紙の署名よりも重く、俺の魂を繋ぎ止める。
冬冬――。
遠く、朝の街鼓が、腹の底に響く地鳴りとなって鳴り始めた。
檻が開く音。
俺が支配し、お前が管理する。
二人で歩む、終わりのない覇道の幕開けを告げる、凱旋の光だった。
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また明日[19:00]にお会いしましょう。




