とろける境界線、あるいは不平等な贈与
ふぅ、と。
私の唇から、熱に浮かされた魂がこぼれ落ちるような、甘い吐息が漏れた。
もはや、そこには「痛み」という負債は存在しない。
彼の指が沈み込むたびに、氷点下で凍りついていた私の筋肉は、熱を持った泥のように形を失い、融解していく。
意識の輪郭が、じわりと滲む。
「皇帝陛下」という絶対的なステータスも、今の私には対岸の火事よりも遠い出来事だ。
強制シャットダウン。
私の脳内CPUは、ついに外部からの侵入に対する抵抗を放棄した。
「……よくやったな、林鈴」
耳元で、彼の低音が静かに共鳴する。
調律されたチェロのように重厚な響きが、直接脳髄を痺れさせた。
「お前のおかげで、六局の血流が蘇った。……お前は、俺の最高の『機能』だ」
彼の指が、首筋から頭部へと滑らかに移動する。
髪の根元を梳くように、頭皮の強張りを優しく揉みほぐされるたび、ゾクゾクと快楽の微弱電流が背骨を駆け抜けた。
「……ん?」
不意に、髪の束の間に、ひやりとした異質な感触が滑り込んだ。
滑らかで、それでいて峻烈なほどに冷たい、硬質の感触。
「明日の宴、これを着けてこい」
彼の手が、私の髪を無造作に、けれど手慣れた仕草で結い上げ、そこへ何かを深く挿し込んだ。
ずしり、と頭部に密度の高い質量を感じる。
「……これ、は……?」
私は鉛のように重い瞼を数ミリだけ持ち上げ、夢現の境界で問いかけた。
「退職金代わりの、記念品だ」
李宵は私の耳朶に唇を寄せ、愉悦を含んだ声音で囁いた。
「緑の衣には地味かもしれんが……お前によく似合う」
ああ、なるほど。
プロジェクト完了に伴う、現物支給の特別賞与か。
(……ありがたく、資産として……頂戴します……)
私は心の中で業務完了の受領印を押し、完全に脱力した身体を、彼の赭黄の衣の熱へと預けた。
髪に挿されたそれが、最高級の「羊脂白玉」を削り出し、皇后にしか許されない双龍の意匠を刻んだ禁忌の簪であることなど、一兵卒の私には知る由もない。
私の意識は、峻烈な龍脳の香りと、背後から包み込む彼の膨大な熱量に溶かされ、心地よい闇の底へと墜ちていった。
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また明日[19:00]にお会いしましょう。




