皇帝の施術、あるいは高密度な特別賞与
「……全工程、完了したようだな」
李宵は、机上に完璧に整列した報告書の束を一瞥し、重厚な満足感を湛えて頷いた。
漆黒の瞳が、ふいに私の肩先へと移動する。
「だが、お前の体はボロボロだ。……まるで石を削り出したかのように凝り固まっている」
「ええ、まあ。職業病ですので。この程度の工数は、予算内ですよ」
私が無造作に肩を回すと、関節が「パキリ」と乾いた悲鳴を上げた。
彼は無言のまま、部屋の隅に置かれた、重厚な木枠の寝台を指差した。
「そこに座れ」
「は? いえ、もう本日の業務はクローズしましたし、帰ります……」
「座れ」
有無を言わせぬ皇帝命令。
私は観念して、沈香の香りが染み付いた硬いクッションの上に腰を預けた。
盤領袍の絹が擦れ合う、衣擦れの音が耳元をかすめる。
彼の大きな影が、背後から私を包み込むように覆いかぶさった。
龍脳の香りが、背筋を伝う熱と共に密度を増す。
「へ、陛下?」
振り返ろうとした、その刹那。
ガシッ。
灼熱の掌が、私の両肩を容赦なく鷲掴みにした。
「――っ!?」
彼の太い親指が、僧帽筋の最深部――限界まで圧縮された「疲労の核」へと、精密機械のような正確さで食い込んだ。
「ぐ、ぅあ……ッ!」
痛い。けれど、それ以上に恐ろしいまでの快楽が中枢神経を直撃した。
彼の指は、鋼鉄のプレス機のような質量を持ちながら、筋肉の繊維を一本ずつ検品し、解きほぐしていく繊細さを併せ持っている。
「力が入りすぎだ。息を吐け」
耳朶を揺らす、重低音の囁き。
抗う術を失い、促されるままに呼気を吐き出すと、さらに深く指が肉へと沈み込んでいく。
ゴリ、ゴリ、と音を立てて、私の頑固な疲労物質が粉砕されていくのが分かった。
「ちょ、ちょっと待ってください……! こ、皇族の方にこんな……これは明白なガバナンス違反です!」
私は、崩れ落ちそうな意識を繋ぎ止め、必死に抗議のロジックを紡いだ。
「黙っていろ。……これは、俺の独断による『特別賞与』だ」
李宵は聞く耳を持たない。
手つきはさらに大胆さを増し、首筋から脊髄のラインへと滑らかに移動していく。
「ここは『風池』。眼精疲労に効くツボだ。……酷使しすぎだぞ、その目は」
ググッ、と首の付け根を、熱を帯びた指先で抉られる。
瞬間、目の奥に溜まっていた澱がジンと熱を持ち、視界が白く洗い流されるような衝撃が走った。
だめだ。
思考のメイン回路がショートする。
(……あ、だめ……気持ち、いい……)
悔しいほどに、身体は正直だった。
一月近く張り詰めていた緊張の糸が、彼の手によってプツリ、プツリと断ち切られていく。
私はいつしか不毛な抗議を飲み込み、されるがままに、全重力を背後の「熱」へと委ねていた。
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また明日[19:00]にお会いしましょう。




