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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第1部『隠れ家の監査役』

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厨房のデバッグ、あるいは「熱」の再定義

()せ返るような熱気が、肌を容赦なく叩く。

尚食局(しょうしょくきょく)の厨房は、地上の極熱を凝縮したような戦場だ。


私は入り口に立ち、盤領袍(ばんりょうほう)の重い袖を肘の上まで力強く捲り上げた。


「本日のミッションは一つ。皇帝陛下に『湯気の立つ麺』を提供することです」


私の宣言が、竈の爆ぜる音を切り裂いた。

典膳(てんぜん)が太い眉を不自然に歪め、困惑を露わにする。


「しかし、林才人。毒見の手順を踏めば、どうしても冷めてしまいます。麺など、陛下のお手元に届く頃には伸びきって、餅のようになってしまいますよ」


「だから、工程プロセスを変えます」


私は黒板代わりに用意させた厚い木札に向き直り、石灰石を握った。

キィ、という硬質な音が、女官たちの耳を打つ。


「現状のボトルネックは、調理後の『待機時間』と『移動中の放熱』です。これを解消するために、二つの策を導入します」


まず、第一の策。

私は厨房の隅に鎮座する、特注の重厚な木箱を指差した。


「『湯煎式運搬箱』です。移動中も下からの蒸気で器を温め続けます。これで移動中の温度低下(ヒートロス)はゼロになります」


「ほう……!  湯で保温するとは」


典膳(てんぜん)の喉が鳴る。

だが、真の課題(バグ)はその先にある。


「そして第二の策。毒見の並列化パラレル・プロセッシングです」


「並列化?」


「はい。完成品を毒見するから時間がかかるのです。……調理段階で、食材ごとに毒見役が試食し、安全が確認されたものだけを、信頼できる調理担当者がその場で仕上げる。そうすれば、完成後の毒見は最小限の『形式的チェック』で済みます」


女官たちの間に、波紋のようなざわめきが広がった。


「いいですか。銀が黒くなるのは、主にヒ素などの『硫黄化合物』に反応した時だけです。トリカブトやフグ毒のような有機毒には反応しません」


一同が、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まる。


「つまり、銀の箸は万能の探知機ではないのです。本当に安全を守るなら、銀に頼るのではなく、厨房に入室できる人間を厳選し、調理過程を監視モニタリングする方がよほど確実です」


科学的根拠エビデンスと、徹底した管理体制マネジメント

それが、私が提示した「食のセキュリティ」の全貌。


「……なるほど。理にかなっている」


典膳(てんぜん)が重々しく頷いた。


「やりましょう、林才人。……陛下に、尚食局の意地をお見せするのです」


「ええ、お願いします。メニューは?」


「『陽春麺(ヨウシュンメン)』でいきましょう。シンプルですが、熱々のスープと麺の喉越しが命です」


厨房の空気が、一瞬で「製造ライン」のそれへと変容した。


「麺、上がります!」


典膳(てんぜん)の咆哮と共に、見事な手捌きで湯切りされた麺が丼の中で躍動する。

私はすかさず、その「熱」を湯煎箱の深部へと収めた。


「輸送班、GO!  目標タイム、五分以内!」


私の号令。

熱々の重みを抱えた女官たちが、夜霧を切り裂く矢となって走り出す。


届けよう。

冷え切った玉座に座るあの男の胃袋に、火傷するほどの愛という名の再起動プログラムを。

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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