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【完結】皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第1部『隠れ家の監査役』

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蒙頂甘露、あるいは支配の報酬

指先の(しび)れが、冷え切った紫檀の木肌を通してゆっくりと吸い出されていく。


深夜の隠れ家。

私は机に突っ伏したまま、泥のように重い吐息を一つ、肺の底から絞り出した。


「……ミッション、完了しました」


王貴妃との密約。

皇帝陛下を「ケチな上司」に仕立て上げ、実家の搾取を物理的に遮断した強引なスキーム。


「まさか、俺の名前(勅命)をあのような形で使うとはな」


李宵(リ・ショウ)の喉の奥で、チェロを奏でるような低い振動が響く。


「『皇帝陛下は倹約家ゆえ、贅沢な贈り物は逆鱗に触れる』……か。おかげで、俺はケチな皇帝として歴史に名を残すかもしれん」


「必要経費です。……それに、不良債権を処理できたのですから、国にとってもプラスでしょう?」


むくりと顔を上げれば、至近距離で細められた李宵(リ・ショウ)の瞳が、黒曜石の熱を帯びて私を射抜いていた。


「ああ、上出来だ。……褒美をやる」


差し出されたのは、金銀の輝きではなく、立ち上る白い湯気だった。


蒙頂甘露(もうちょうかんろ)

この国の「頂点」だけがその喉を潤すことを許される禁断の雫。


「……いいのですか?」


「飲め。毒気にあてられて、参っている顔だ」


図星だった。

清冽な蘭の香りに、身体の奥に沈殿していた疲労が湯気と共に蒸発していく。


「生き返りました……」


ほう、と漏れた息が、カンテラの炎を小さく揺らした。

湯気の向こう側で、李宵(リ・ショウ)が私を「検品」するように見つめている。


彼から伸びてきた長い指が、私の頬に張り付いていた後れ毛を、慈しむように耳の後ろへと押し流した。

指先の体温が、神経を直接焼くような電流となって背骨を駆け抜ける。


「だが、ほどほどにしておけよ」


「え……?」


「その計算高い優しさで、次は誰を落とす気だ?」


指がそのままゆっくりと滑り、私の唇の端をなぞった。

愛撫というにはあまりに支配的で、逃げ場のない接触。


「……俺以外でな」


低い(ささや)きが、心臓の鼓動を鷲掴みにする。


――この俺が買い取った資産に、他の誰の指も触れさせるな。

そんな、身震いするほど強烈な所有欲のマーキング。


私は茶杯を持つ手に震えを押し込め、視線を逸らした。


「……善処します」


李宵は満足げに目を細め、私から視線を外さぬまま、自らの茶杯をゆっくりと喉へ傾けた。


外敵をロジックで排除し、私の「聖域」は完成へと近づいていた。

けれど。


この城の中央に、絶対的な重力を持って居座る美しい魔王。

彼という最大級の「想定外」だけは、私の世界から切り離せそうになかった。

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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