表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第3部『御前プレゼン』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

118/123

再契約の儀、あるいは終身雇用の提案

申の刻(さるのこく)

数千人の体温が消えた後宮は、真空地帯のような静寂に沈んでいた。

私たちは、かつて「不採算(ふさいさん)部門の監査拠点」として占拠していた、あの(ほこり)っぽい廃倉庫の隅にいた。



西日が格子の隙間から水平に差し込み、滞留する(ちり)を黄金色の電子回路のように輝かせている。

卓に向かい合う李宵の貌半分は濃い陰に沈み、残された黄金の瞳だけが、行き場のない熱を孕んで私を射抜いていた。



彼は組んだ指の関節が白く浮き上がるほど拳を握りしめ、その指先は、制御不能な震動(パルス)を刻んでいる。






「……林鈴(リン リン)。お前も、自由だ」



肺の底から絞り出された聲音は、(かす)れ、湿り気を帯びていた。



「望むなら、十分な持参金を持って出て行ってもいい。……俺にはもう、皇帝の権限で愛する女を縛る権利はない」



それは、退職推奨を装った、臆病なまでの「懇願」だった。

すべてを合理化し、檻を壊し尽くした今、私を繋ぎ止める物理的な拘束具(デバイス)を彼は何一つ持っていない。



卓を挟んで伝わってくるのは、彼という巨大なシステムの基幹が、私という「コア」を失う恐怖で激しく過熱(オーバーヒート)している予兆。



私は音もなく歩み寄り、彼の手元の空白を埋めるように、一枚の宣紙(せんし)を滑らせた。

無意識に、空中で指を動かし見えない諸表(スプレッドシート)の最終行をなぞる。



昨夜、墨の匂いに包まれながら、一文字ずつ私の意志を刻印した「新規雇用契約書」だ。






「再就職を希望します。……条件は、貴方の隣。契約期間は、死ぬまで(終身)」



私が口角を不敵に釣り上げると、彼の網膜が激しく震えた。



視線が、書類の項目と私の貌を、何度も往復する。

やがて、はがねのように強張こわばっていた彼の貌が、内側から崩壊するように劇的に緩んだ。



それは絶対君主の仮面が剥がれ落ち、世界でただ一つの重要資産(アセット)を手に入れた、無防備な少年の貌だった。



「……採用だ。即時採用だ!」



ガタァッ! と椅子が床を蹴る衝撃音。

卓を回り込んできた彼の腕が、私の肋骨が悲鳴を上げるほどの力感で、私の身体を「所有」した。



耳朶じだに直接叩きつけられる、早鐘のような心拍。

龍脳(りゅうのう)の香りが、夕刻の冷え始めた空気の中で爆発するように立ち昇る。






「絶対に逃がさんぞ。……これからは、俺の『伴侶』として、そして『宰相パートナー』として、こき使ってやるからな」



「ええ。覚悟の上です。……ただし、残業代は高くつきますよ?」



私は彼の首筋に腕を絡め、剥き出しの体温を吸い込んだ。

義務でも、政略でも、ましてや運命などという曖昧あいまいな変数でもない。



私というプロフェッショナルが、自身の全機能を賭けて選び抜いた、生涯最高の「配属先」。



重なり合う唇の端で、鉄のようなインクの匂いと、甘い点心の余韻が混じり合う。

西日に照らされた卓の上には、新しい契約書――役職名**「尚書令(しょうしょれい) 兼 皇后」**と書かれた紙面に、乾く間もない鮮やかな朱の「承認」が、深く、重く刻印されていた。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ