開門、あるいは未来への産道
午の刻。
天頂から降り注ぐ垂直の陽光が、玄武門の巨大な影を石畳に短く縫い付けていた。
灰色の石壁と門扉の間にひしめくのは、数千人の女官たちが放つ熱気と、使い古された麻布の匂い。
皆、背中に全財産を詰め込んだ風呂敷包みの重みを食い込ませ、手には「退職金(持参金)」の入った革袋と、指紋が滲んだ「身分証明書」を、剥き出しの命綱のように握りしめていた。
私は、李宵と共に、城壁の上の回廊からその光景を俯瞰していた。
かつて、この門は一度飲み込まれれば二度と排出されぬ「死の孔」だった。
だが、今この瞬間、システムは逆回転を始める。
ギギギギ……、ズズズ……!!
数十年分の錆を噛んだ巨大な蝶番が、断末魔のような悲鳴を上げて絶叫する。
垂直の隙間が広がるにつれ、内側の澱んだ空気を押し出すように、外の世界の暴力的なまでの光と風が雪崩れ込んできた。
鼻腔を突くのは、乾いた砂埃の匂い。屋台の胡麻油が焼ける湯気。馬のいななき。人々の怒鳴り声。
それらはすべて、この檻の中では決して調達できなかった「自由」という名の揮発成分だった。
「……往くがいい」
李宵の低い聲音が、祈りのような微かな振動を伴って私の鼓膜を震わせた。
それは皇帝の命令ではない。
長年、自身の所有物として管理し続けてきた籠の鳥たちの扉を、自らの指で壊した飼い主の、慈愛と決別の吐息。
「新しい世界へ。……達者でな」
彼の言葉が熱い風に乗る。
刹那、堰を切った奔流のように、女官たちが歓喜の叫びと共に門の向こうへと殺到した。
狭い産道を通り抜け、眩しすぎる外界へと生まれ落ちる赤子のように。
色褪せた紅、煤けた青、擦り切れた緑。
女官たちの衣が織りなす極彩色の波が門の向こうへ溢れ出し、無機質な外の石畳を鮮やかに侵食していく。
彼女たちは走る。
ある者は親の待つ土の匂いへ。ある者は新しい職という名の戦場へ。ある者は、年月で解像度の落ちた恋人の貌の元へ。
振り返る者は、一人としていない。それがこの「解体プロジェクト」の正解なのだ。
「……行ってしまいましたね」
「ああ。……彼女たちはもう、俺のものではない」
李宵の横顔には、膨大な資産を失った喪失感など微塵もなかった。
あるのは、背負い続けてきた「責任」という名の重石をパージした者だけが湛える、透き通った安堵の色。
私は、急速に熱量を失い、静まり返った広大な後宮を振り返った。
そこはもう、ただの石と木材の集積体に過ぎない。
美しい檻という機能は永久に失われ、そこにはただ、自由な風が吹き抜けるだけの、空虚で広大な空間が横たわっていた。
「私がやりたかったのは、これです」
胸の奥から、肺を圧迫するような熱い塊がせり上がってくる。
計算を合わせることでも、業務を最適化することでもない。
人が、人として自律的に呼吸できる場所と権利を、その手に返還すること。
それが、外資系コンサルからこの世界へ放り出された私が、死に物狂いで達成すべき本当の仕事だったのだ。
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また明日[19:00]にお会いしましょう。




