構造改革案、あるいは火を放つ言葉
「……只今より、後宮制度改革案の説明を行います」
私の喉から放たれた振動が、紫宸殿の冷え切った大気を震わせ、巨大な梁に跳ね返って千人の鼓膜へと突き刺さった。
さざ波のような私語が急速に引き、澱んだ静寂が広間を満たしていく。
「結論から申し上げます。……現行の後宮制度を廃止し、六局二十四司を『省』へと格上げし、女官を正規の官僚として再雇用することを提案します」
――ドッ!!
一瞬、真空状態になったかのような錯覚。
直後、千人の肺から一斉に吐き出された怒号が、物理的な音圧となって私の身体を叩いた。
演台を握る指先に、床から伝わる微かな震動が届く。
「何を馬鹿な! 女に政ができるか!」
「伝統の破壊だ! 先帝への冒涜だ! 皇后は乱心されたか!」
怒声と共に、官僚たちの象牙の笏が激しく揺れ、彼らの蓄えた髭が興奮で醜く跳ねる。
私は瞬き一つせず、手元の資料の端を指先でなぞった。
乾燥した羊皮紙が「カサリ」と無機質な音を立てる。
その微細な音が、私の耳にはどの怒鳴り声よりも鮮明に響いた。
「伝統? ……では、感情ではなく数字でお話ししましょう」
腹の底から声を張り上げ、広間を埋め尽くす音の奔流を強引に切り裂く。
「現在の後宮維持費は、国家予算の実に二割を占めています。対して、そこから生まれる利益はゼロ。……いえ、調度品の横流しや架空発注による損失を含めれば、算出される損益分岐点は莫大なマイナスです」
私は、女官たちが徹夜で書き上げた巨大な巻物を、演台の上で勢いよく解き放った。
黒々と墨で描かれた「損失」の放物線が、朝の光に照らし出され、彼らの網膜へ容赦なく焼き付いていく。
「この不採算部門を維持し続けることが、皆様の言う『守るべき伝統』なのですか? 民が泥にまみれ、汗水垂らして納めた税を、何も生産しない巨大な檻に投棄し続けることが?」
沸騰していた空気が、急速に冷却されていく。
官僚たちの瞳孔が微かに揺れ、隣同士で顔を見合わせる。
彼らもまた、位階という名のキャリアを積み上げてきた実務家だ。
突きつけられた「二割」という数字の暴力的な重みを、無視できるほど愚かではない。
「この予算を国防と治水に回せば、北方の防壁は修復でき、毎年のように起こる黄河の氾濫は防げます。……皆様の領地の安全と、飾られただけの美女。どちらが真の国益に適うか、賢明な皆様なら既にお分かりでしょう?」
特に、地方の利害を背負う下級官僚たちの顔色が、土色から「実利」を追い求める色へと変化した。
彼らが構える笏が、迷いを示すように僅かに傾く。
(……損益分岐点を超えたわね)
唇の両端を、誰にも気づかれないほど僅かに釣り上げる。
感情論という名の腐った盾を、利益という名の火で焼き払う。
それは、私が現代という戦場で磨き抜いてきた、唯一無二の必勝法だった。
不意に、背後の玉座から、肌を灼くような熱い視線を感じて背筋が震えた。
赭黄の衣を纏い、沈黙を守る李宵。
彼は言葉を発しない。
けれど、その黄金の瞳は、狼が獲物を定めるような鋭さで、広間を圧倒する私の姿を「見出して」いた。
「お前ならやれる」――。
言葉以上の全肯定が、龍脳の香りと共に私の心臓へと流れ込み、冷徹なロジックに熱い拍動を与えていく。
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