表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第3部『御前プレゼン』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

113/123

構造改革案、あるいは火を放つ言葉

「……只今より、後宮制度改革案の説明を行います」



私の喉から放たれた振動が、紫宸殿の冷え切った大気を震わせ、巨大な(はり)に跳ね返って千人の鼓膜へと突き刺さった。

さざ波のような私語が急速に引き、(よど)んだ静寂が広間を満たしていく。



「結論から申し上げます。……現行の後宮制度を廃止し、六局二十四司を『省』へと格上げし、女官を正規の官僚として再雇用することを提案します」



――ドッ!! 



一瞬、真空状態になったかのような錯覚。

直後、千人の肺から一斉に吐き出された怒号が、物理的な音圧となって私の身体を叩いた。

演台を握る指先に、床から伝わる微かな震動が届く。



「何を馬鹿な! 女に(まつりごと)ができるか!」



「伝統の破壊だ! 先帝への冒涜だ! 皇后は乱心されたか!」



怒声と共に、官僚たちの象牙の笏が激しく揺れ、彼らの蓄えた髭が興奮で醜く跳ねる。

私は瞬き一つせず、手元の資料の端を指先でなぞった。



乾燥した羊皮紙が「カサリ」と無機質な音を立てる。

その微細な音が、私の耳にはどの怒鳴り声よりも鮮明に響いた。



「伝統? ……では、感情ではなく数字でお話ししましょう」



腹の底から声を張り上げ、広間を埋め尽くす音の奔流を強引に切り裂く。



「現在の後宮維持費は、国家予算の実に二割を占めています。対して、そこから生まれる利益はゼロ。……いえ、調度品の横流しや架空発注による損失を含めれば、算出される損益分岐点(そんえきぶんきてん)は莫大なマイナスです」



私は、女官たちが徹夜で書き上げた巨大な巻物を、演台の上で勢いよく解き放った。

黒々と墨で描かれた「損失」の放物線が、朝の光に照らし出され、彼らの網膜へ容赦なく焼き付いていく。



「この不採算(ふさいさん)部門を維持し続けることが、皆様の言う『守るべき伝統』なのですか? 民が泥にまみれ、汗水垂らして納めた税を、何も生産しない巨大な(おり)に投棄し続けることが?」



沸騰していた空気が、急速に冷却されていく。

官僚たちの瞳孔が微かに揺れ、隣同士で顔を見合わせる。



彼らもまた、位階という名のキャリアを積み上げてきた実務家だ。

突きつけられた「二割」という数字の暴力的な重みを、無視できるほど愚かではない。



「この予算を国防と治水に回せば、北方の防壁は修復でき、毎年のように起こる黄河の氾濫は防げます。……皆様の領地の安全と、飾られただけの美女。どちらが真の国益(メリット)(かな)うか、賢明な皆様なら既にお分かりでしょう?」



特に、地方の利害を背負う下級官僚たちの顔色が、土色から「実利」を追い求める色へと変化した。

彼らが構える笏が、迷いを示すように僅かに傾く。



(……損益分岐点を超えたわね)



唇の両端を、誰にも気づかれないほど僅かに釣り上げる。

感情論という名の腐った盾を、利益という名の火で焼き払う。

それは、私が現代という戦場で磨き抜いてきた、唯一無二の必勝法だった。






不意に、背後の玉座から、肌を灼くような熱い視線を感じて背筋が震えた。

赭黄(しゃこう)の衣を纏い、沈黙を守る李宵。



彼は言葉を発しない。

けれど、その黄金の瞳は、狼が獲物を定めるような鋭さで、広間を圧倒する私の姿を「見出して」いた。

「お前ならやれる」――。

言葉以上の全肯定が、龍脳の香りと共に私の心臓へと流れ込み、冷徹なロジックに熱い拍動を与えていく。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ