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【完結】皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第3部『御前プレゼン』

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王の自己嫌悪、あるいは血の記憶

深夜の寝殿は、音そのものが酸素を失って窒息したかのように、重く、底冷えのする静寂に沈んでいた。



豪奢(ごうしゃ)螺鈿(らでん)の調度品も、芯が燃え尽きようとして不規則に爆ぜる蝋燭(ろうそく)の炎も、この広大な空間に滞留する「孤独」の質量をいささかも減らしてはいない。



人払いをされた無人の空間。李宵(リ ショウ)は一人、格子窓の傍らに彫像のように立ち尽くしていた。



天から降り注ぐ月光が、彼の(まと)盤領袍(ばんりょうほう)の絹を青白く脱色し、その鋭い背中を闇の中に残酷に切り出している。

昼間、紫宸殿(ししんでん)で抜刀し、数百人の官僚を一喝したあの絶対的な覇気は消失していた。



そこにいるのは、世界という名の巨大な機構(システム)から切り離され、己の影に怯える一人の男の成れの果てだった。




「……陛下」




私が努めて乾いた、平熱の聲音(しょうね)で呼びかけると、彼の肩が不随意に跳ねた。

ゆっくりと、(さび)ついた歯車を回すような緩慢さで振り返った彼の(かお)



喉の奥が狭まる。

死人のような蒼白(そうはく)さの中で、充血した瞳だけが異様にぎらつき、行き場を失った恐怖という名の高熱を(たた)えていた。



彼は、自身の両手を――あわや剣を振り下ろし、温かな血を浴びるはずだったその(てのひら)を――まるで制御不能に陥った故障部品を見るかのように、呆然と見つめている。




「……来ないでくれ」




拒絶。けれどその声は、私を疎むものではなく、私という「聖域」に、自身が(はら)んだ汚濁を侵入させまいとする、悲鳴に近い警告(アラート)だった。




「俺の中には、あの男と同じ血が流れている」




あの男。先帝。

かつて名君と(うた)われながら、晩年は疑心暗鬼という名のバグに思考を乗っ取られ、忠臣を次々と処刑して帝国という組織を自壊させた、狂気の暴君。



李宵がその生涯をかけて否定し、そして最も恐れている「血による遺伝(レガシー・エラー)」。




「カッとなると、視界が赤く染まるんだ。……理性が消し飛び、頭蓋の裏側で『殺せ』と誰かが叫ぶ。……今日、俺は確かにそれを聞いた」




彼の膝が、物理的な衝撃を伴ってガタガタと震え出した。

耐えきれず、彼はその場に崩れ落ちる。



冷たい石床に手をつき、肺の底に溜まった汚泥を嘔吐(おうと)するように、言葉を絞り出した。




「怖いんだ、鈴。……俺は、いつかお前さえも斬るかもしれない。愛しているはずの人間を、この手で壊してしまうかもしれない……!」




それは、皇帝という完璧な仮面の下に隠蔽(いんぺい)されていた、孤独な怪物の懺悔(ざんげ)だった。

誰にも見せられず、監査(チェック)さえ許されない、脆弱(ぜいじゃく)で熱い(コア)



私は迷わず歩み寄り、冷気を吸い込んだ床に膝をついた。

そして、氷のように熱を失い、死を待つ小鳥のように強張(こわば)った彼の両手を、私の両手で力強く、密着させるように包み込んだ。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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