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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第3部『御前プレゼン』

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ロジック・バースト、あるいは腐った盾の破壊

紫宸殿の沈黙が、一気に沸騰した。



「後宮は帝国の伝統だ! 廃止など、祖宗の法への明白な反逆である!」



礼部尚書(れいぶしょうしょ)が、口角から飛沫(ひまつ)を飛ばして咆哮する。

その興奮により、彼の盤領袍の襟元が苦しげに波打っていた。



私は、乾燥しきった喉の痛みを無視し、手元の羊皮紙の三ページ目へと視線を落とした。






「伝統、ですか。……その維持に投じられる国庫支出は、年間四十万両。対して、この『事業部門』が帝国にもたらすROI(投資対効果)はゼロ。いえ、中抜きと横領による損失を計上すれば、算出される数値は大幅なマイナスです」



私は、使い込まれた算盤(そろばん)の珠を弾くような無機質な声で続けた。



「尚書。貴方は、出血し続ける傷口を『伝統』という包帯で隠し、帝国が失血死するのを傍観なさるおつもりですか?」



「ぐっ……し、しかし、皇帝陛下の血筋を絶やすわけには……」



「血筋、ですか。現在、後宮には三千人の女性が収容されていますが、陛下がその居住区に足を踏み入れた回数は、直近一年でゼロ。……機能不全を起こしたシステムを維持するために、民の血税を燃やし続ける妥当性は、この帳簿のどこにも見当たりません」



次だ。息を継ぐ暇さえ与えない。






「女官たちを解雇すれば、路頭に迷う者が溢れ、長安の治安は崩壊するぞ!」



戸部尚書が、卓を叩いて身を乗り出す。

私は十五ページ目を開き、その鼻先に突きつけた。



「ご心配なく。……彼女たちは六局二十四司の官僚機構を実務で回ってきた、稀少な『熟練技能者』です。再教育(リスキリング)を施し、民間市場や地方官庁へ再配置すれば、推計で年間五十万両の経済波及効果が見込めます。……彼女たちは国の負担(コスト)から、有力な納税者(アセット)へと転換されるのです」



数字の弾丸を、淀みなく撃ち込む。

反論の振動が空気を震わせるたびに、私はインクの匂いが残る羊皮紙から、逃げ場のない確定事実(エビデンス)を提示し、その喉元を沈黙させていく。



(てのひら)に伝わる羊皮紙のザラつきが、私の集中力を研ぎ澄ませ、周囲の喧騒が遠のく「領域(ゾーン)」へと私を押し上げていた。






皇太后が、震える指先で象牙(ぞうげ)の扇子を握りしめ、その骨が軋む音を立てている。

もはや、彼女の理論には一銭の価値も残っていない。



だが、私は攻勢を緩めない。

最後に、彼らの胸の奥にある、最も脆弱な「感情のボトルネック」を突く。



「それに……ここにいる皆様の中にも、愛娘を後宮へと送り出している方がいらっしゃるはずです」



私はあえてトーンを落とし、肺の空気をゆっくりと吐き出しながら、高官たちの眼球の動きを一つずつ観察した。



「後宮という名の不採算部門を解体すれば、彼女たちは『妃』という名の在庫管理から解放されます。……今宵にでも、彼女たちを家族の食卓へ呼び戻せるのですよ?」






数名の高官が、ハッとしたように睫毛(まつげ)を震わせ、視線を泳がせた。

彼らの脳裏に、権力闘争の駒として差し出した娘の、幼い頃の体温が(よみがえ)ったのかもしれない。



張り詰めた空気が、音を立てずに弛緩(しかん)していく。

勝負あった。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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