表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第3部『御前プレゼン』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

105/123

紫宸殿への殴り込み、あるいは数字の弾丸

――冬冬(トントン)――。



長安の夜明けを告げる街鼓(まちつづみ)の残響が、紫宸殿(ししんでん)の重厚な扉に吸い込まれていく。

数人がかりで押し開かれた扉が、無機質な咆哮(ほうこう)を上げて、冷え切った朝の空気を広間へと流し込んだ。



「……妖女・林氏。入廷!」



衛士の乾いた(こえ)が、高い天井の(はり)に反響する。



私は李宵の熱を(はら)んだ掌からそっと指を解き、一歩、磨き上げられた石床へと踏み出した。

やつれた身体を包むのは、あえて選んだ色褪せた麻の衣だ。



その粗い繊維が、手首に残る赤い(かせ)の跡を執拗(しつよう)に擦り、脳中枢へと「現状の不当性」を鋭い痛みとして訴えかけてくる。






視界の先に並ぶのは、最高級の盤領袍(ばんりょうほう)を纏った、この国の旧弊(レガシーシステム)そのものとも言える保守派の高官たちだ。

彼らの網膜が、私の惨めな装いを捉えた瞬間。



広間には、熟れすぎた果実が潰れるような湿った嘲笑と、予定調和を乱されたことへの不快な動機(ノイズ)が充満した。



「……よくもぬけぬけと戻ってきたものだ」



最奥の、金糸の刺繍ししゅううごめく椅子に深く腰掛けた老婆――皇太后が、象牙の親骨を持つ扇子で口元を遮った。

細められた瞳の奥にあるのは、人間に対する興味ではない。

自分の管理下にあるべき「所有物」がエラーを起こしたことへの、冷酷な排除の意志。



「この場は神聖な御前会議。罪人が足を踏み入れて良い場所ではない」



「罪人? ……異なことを(おっしゃ)いますね」



私は李宵の手を完全に離し、重力に逆らうように背筋を垂直に保った。






懐から取り出したのは、地下牢の石灰の壁に炭で刻んだあの「計算式」を、女官たちが指先の脂を滲ませながら清書した、質量のある羊皮紙の束だ。



――ドサッ!! 



私はそれを、並み居る高官たちの視線を叩き潰すような勢いで、黒漆の卓へと叩きつけた。



石造りの空間に、乾いた重低音が炸裂(さくれつ)する。

衝撃で舞い上がった(ほこり)が、官僚たちの高価な香油の匂いを無作法に()き消した。



彼らは一様に、汚物でも投げ込まれたかのように顔を歪める。



「これは……なんだ?」



「『後宮解体新書』です。……この国の(うみ)を、すべて数字で可視化しました」



私は、肺の奥から絞り出した冷徹な聲を、広間の四隅まで届くように放った。






感情による攪乱(かくらん)も、血筋という名の「のれん代」もここには存在しない。

逃げ場のない、客観的事実(数字)という名の弾丸による、徹底的な最終監査ファイナル・オーディットの開始だ。



背後で、赭黄(しゃこう)の衣が微かに絹擦れの音を立て、李宵が愉悦を噛み殺すように口角を持ち上げた気配がした。



私の脊髄を駆け抜ける、生存戦略上の確信。

ここは断頭台へと続く敵地(アウェイ)ではない。

私が、私の知性で構築し直した、唯一無二の独壇場(テリトリー)なのだ。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ