再会の抱擁なし、あるいは業務報告の開始
――カラン、カシュゥゥゥ……。
磨き抜かれた紫宸殿の石床を、白銀の剣が滑り、乾いた震動を撒き散らしながら横たわる。
それは、今しがたまでこの場を支配していた殺意が、物理的な重みとなって打ち捨てられた音だった。
「……鈴」
李宵の膝が、自重に耐えかねたように石床へ崩れ落ちる。
指先が、空を掴むように彼女へと伸ばされた。
視界は熱い膜に覆われ、肺の奥からは制御不能な嗚咽がせり上がってくる。
なりふり構わず、地下牢の冷気を吸い込んだその細い身体を抱きしめ、龍脳の香りで彼女に染み付いた泥の匂いを上書きしてしまいたい。
だが、その指先が彼女に触れる直前。
彼女は、彼の手を実務的な正確さで掴み取った。
そして、幼児を導くような、けれど一切の反論を許さない力強さで、彼を硬質な玉座へと押し戻した。
「抱擁は後回しです。……まずは、業務報告です」
彼女の指先が、彼の頬を伝う熱い雫を、汚れを拭うかのような無造作な動作ではじき飛ばした。
彼女はクルリと踵を返すと、腰を抜かしたまま硬直している皇太后と、呼吸を忘れた官僚たちの群れを、冷徹な「監査対象」として射貫いた。
ボロボロの囚人服。
けれど、西日に縁取られたその背筋は、垂直な重力そのものとなって、停滞した空気の澱みを切り裂いていく。
「さて、皇太后様。……及び、無能な経営陣の皆様」
彼女の声が、静止した空間の隅々にまで、染み渡るような硬度を持って響き渡る。
それは、感情による攪乱を許さない、絶対的な「事実」の通告だった。
「監獄での『現地調査』の結果をご報告します。……この国の膿がどこにあるか、すべて数字で明らかになりましたよ」
李宵は、自身の顔を震える掌で覆った。
視界が暗転する中、喉の奥で噛み殺したのは、もはや悲鳴ではない。
熱い涙と共にこみ上げてきたのは、圧倒的な信頼という名の狂喜だ。
剣など、最初から不要だった。
彼女がその場に立ち、冷徹な座標を示す。
ただそれだけで、崩壊しかけていた帝国の基盤が、音を立てて再構築されていく。
「まったく。……私がいないと、すぐにこれですか。コスト管理がなってませんね」
彼女は玉座の傍らまで戻ると、躊躇なく、抜かれたままの剣の側面を足先で押し退けた。
その瞳には、血の色の情熱など微塵もない。
あるのは、次にどの「不良資産」を切り捨てるべきかを見定める、静謐で、凶器のような知性だけだった。
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