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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第3部『御前プレゼン』

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再会の抱擁なし、あるいは業務報告の開始

――カラン、カシュゥゥゥ……。




磨き抜かれた紫宸殿の石床を、白銀の剣が滑り、乾いた震動を撒き散らしながら横たわる。

それは、今しがたまでこの場を支配していた殺意(ロジックの不在)が、物理的な重みとなって打ち捨てられた音だった。




「……鈴」




李宵(リ ショウ)の膝が、自重に耐えかねたように石床へ崩れ落ちる。

指先が、空を掴むように彼女へと伸ばされた。

視界は熱い膜に覆われ、肺の奥からは制御不能な嗚咽(おえつ)がせり上がってくる。




なりふり構わず、地下牢の冷気を吸い込んだその細い身体を抱きしめ、龍脳の香りで彼女に染み付いた泥の匂いを上書きしてしまいたい。




だが、その指先が彼女に触れる直前。




彼女は、彼の手を実務的な正確さで掴み取った。

そして、幼児を導くような、けれど一切の反論を許さない力強さで、彼を硬質な玉座へと押し戻した。




「抱擁は後回しです。……まずは、業務報告(ステータス・レポート)です」




彼女の指先が、彼の頬を伝う熱い雫を、汚れを拭うかのような無造作な動作ではじき飛ばした。




彼女はクルリと(きびす)を返すと、腰を抜かしたまま硬直している皇太后と、呼吸を忘れた官僚たちの群れを、冷徹な「監査対象」として射貫いた。




ボロボロの囚人服。

けれど、西日に縁取られたその背筋は、垂直な重力そのものとなって、停滞した空気の澱みを切り裂いていく。




「さて、皇太后様。……及び、無能な経営陣の皆様」




彼女の声が、静止した空間の隅々にまで、染み渡るような硬度を持って響き渡る。

それは、感情による攪乱を許さない、絶対的な「事実」の通告だった。




「監獄での『現地調査(フィールドワーク)』の結果をご報告します。……この国の(うみ)がどこにあるか、すべて数字で明らかになりましたよ」




李宵は、自身の顔を震える掌で覆った。

視界が暗転する中、喉の奥で噛み殺したのは、もはや悲鳴ではない。

熱い涙と共にこみ上げてきたのは、圧倒的な信頼という名の狂喜だ。




剣など、最初から不要だった。

彼女がその場に立ち、冷徹な座標を示す。

ただそれだけで、崩壊しかけていた帝国の基盤(アーキテクチャ)が、音を立てて再構築されていく。




「まったく。……私がいないと、すぐにこれですか。コスト管理がなってませんね」




彼女は玉座の傍らまで戻ると、躊躇なく、抜かれたままの剣の側面を足先で押し退けた。




その瞳には、血の色の情熱など微塵(みじん)もない。

あるのは、次にどの「不良資産(老害)」を切り捨てるべきかを見定める、静謐(せいひつ)で、凶器のような知性だけだった。

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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