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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第3部『御前プレゼン』

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抜刀、あるいは理性の墓標

――シャリィィィ……ン!




紫宸殿の高く閉ざされた空間に、凍てつくような金属音が()ねた。

右手に伝わる剣の自重と、(つか)を包む鮫皮の冷酷なザラつき。




俺の腕は、思考を経由せず、殺意という名の脊髄反射によって動いていた。




白銀の切っ先が、皇太后の喉元の皮膚を薄く押し込んでいる。

老婆の喉仏が絶え間なく上下し、精巧な刺繍が施された黒衣の襟元が、恐怖による震えで不規則な波を描く。




「へ、陛下!? ご乱心を……!」



「黙れ!!」




俺の咆哮(ほうこう)が巨大な(はり)に反響し、空間の酸素を強引に奪い去る。

目の前の官僚たちは、蜘蛛の仔を散らすように石床へ這いつくばり、彼らの額から流れる脂汗が、磨き上げられた石をぬらぬらと汚していった。




「全員、斬る。……鈴を返さないなら、この国ごと灰にしてやる!」




視界の端が、どす黒い朱に染まっていく。

心拍の振動が鼓膜を直接叩き、理性の防壁はすでに、(あふ)れ出した殺意の奔流に飲み込まれて消失していた。




俺の半身を奪い、世界をバグで満たした代償は、この場にあるすべての「命」という資産で支払わせる。




「神策軍! 突入せよ! 逆賊どもを……!」




俺が致命的な命令(コマンド)を放とうとした、その瞬間だった。




――バァァァン!!




厚さ数寸の重厚な扉が、大気の圧力に弾かれたかのように乱暴に押し開かれた。




背後から差し込む、燃え盛るような夕日の逆光。

(ほこり)が舞う光の檻の中に、一つの「影」が屹立(きつりつ)していた。




(すす)と泥に汚れ、繊維の隙間に地下牢の(かび)の匂いを染み込ませた、ボロボロの囚人服。

だが、その背筋は垂直に天を突き、周囲の装飾過多な妃嬪(ひひん)たちを「不良資産」として一掃するほどの、圧倒的な機能美(アーキテクチャ)を放っている。




「……残業代、高くつきますよ?」




鼓膜を洗うような、澄み切った冷徹な聲音。

それは、俺の脳内を埋め尽くしていたどす黒い濁流を、一瞬で凍結させ、静止させる巨大な防波堤だった。




「……鈴?」




柄を握る指先から、一気に血の気が引いていく。

彼女は、血走った俺の瞳を正面から「監査」するように見つめると、呆れたように小さく肺の空気を吐き出し、迷いのない足取りで石床を刻んだ。




コツ、――コツ、――コツ。




その規則的なリズムが、狂乱の舞台を強引に「日常」という名の座標へと引き戻していく。




「まったく。……私がいないと、すぐにこれですか。コスト管理がなってませんね」




彼女は俺の至近距離まで歩み寄ると、躊躇(ちゅうちょ)なく、素手で剣の側面を押し下げた。




鉄格子の冷気を吸い込んだ彼女の指先の冷たさと、その奥に潜む確かな生命の熱。

幻覚ではない。




龍脳(りゅうのう)の香りに混じって届く、彼女が今しがた食べてきたであろう、点心の微かな胡麻(ごま)の匂い。

俺の理性が、俺の心臓が、血の巡る音を立てて(かえ)ってきた。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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