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皇帝陛下の不採算な溺愛~転生コンサル、契約外の執着で定時に帰れません!~  作者: 深山 凛
第3部『御前プレゼン』

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機能不全の朝廷、あるいはバランサーの喪失

ガン、ガン、ガン、ガン……!



頭蓋の裏側を、重量のある鉄槌(てっつい)で直接叩きつけられているような感覚。

紫宸殿(ししんでん)の玉座を包囲する空気は、(よど)み、酸素の濃度を失っている。



天下を統べるこの(いただき)は今、座るだけで皮膚が裂けるような、鋭利な針の筵(なみのむしろ)と化していた。




「陛下! 申し上げます! 後宮の機能停止により、西域からの外交使節の接待が滞っております! 氷も出せぬとは何事かと、使節団が激怒しており……!」



尚食局(しょうしょくきょく)からの配給が三日も止まっています! 近衛兵たちの士気は低下し、一部では脱走者も……!」



「これは天罰です! あの妖女を早く処刑せねば、国が滅びますぞ!」




視界が、高官たちの激しく上下する喉仏(のどぼとけ)と、口角から飛散する不快な飛沫(ひまつ)で埋め尽くされる。

彼らの(わめ)き声が、俺の露出した神経をやすりで削り取るように逆撫(さかな)でする。



うるさい。

黙れ。

全員、音も立てずに消えろ。




俺は、こめかみの脈動を指先で圧迫し、肺の底から絞り出すように(うめ)いた。

思考の演算回路が、過熱(オーバーヒート)して霧散していく。




林鈴(リンリン)という名の「核」をパージしてから、たった数日。

あの一人の「監査役」というバランサーを失っただけで、千年の歴史を誇る帝国機構システムは、これほどまでに容易(たやす)く、物理的な(きし)みを立てて自壊を始めるものなのか。




卓上に積み上げられた奏上書の山が、死者を弔う不吉な墓標の群れに見える。

どれを優先し、どの不採算(ふさいさん)部門を切り捨てるべきか。




以前なら、彼女が瞬時に『これは却下、これは保留、これは即決』と、冷徹な手捌(てさば)きで仕分けていた。

彼女の細い指先が盤上の石を動かすたびに、滞っていた血流が再び脈打ち、国という名の巨大な個体が、ようやく正常な呼吸を始めていたというのに。




(……鈴なら、どうする?)




俺は、脳内の最も深い領域にアーカイブされた彼女の声を再生しようと、必死に耳を澄ませた。




『コスト意識を持ってください、陛下』

『それはロジカルじゃありません』




あの氷点下の冷徹さを(たた)え、それでいてこの上なく安らかな響き。

だが、聞こえない。




いくら意識の海を潜っても、手応えがあるのは彼女が火刑台の炎に巻かれるという呪いのような幻聴と、己の無力さを(わら)う心音だけだ。




玉座の肘掛けを握りしめる(てのひら)が、不自然に白く変色していく。

空っぽの隣を見る。

彼女の体温を失った空間は、熱を奪うだけの凍りついた石の塊だ。




寒い。

帝国中の残り火をかき集めたとしても、この脊髄(せきずい)を貫く悪寒を消し去ることは、もはや不可能だった。



◆◇◆

読んでいただきありがとうございます!

もしよろしければ、「リアクション」や「ご感想」をいただけると嬉しいです。


また明日[19:00]にお会いしましょう。

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