機能不全の朝廷、あるいはバランサーの喪失
ガン、ガン、ガン、ガン……!
頭蓋の裏側を、重量のある鉄槌で直接叩きつけられているような感覚。
紫宸殿の玉座を包囲する空気は、澱み、酸素の濃度を失っている。
天下を統べるこの頂は今、座るだけで皮膚が裂けるような、鋭利な針の筵と化していた。
「陛下! 申し上げます! 後宮の機能停止により、西域からの外交使節の接待が滞っております! 氷も出せぬとは何事かと、使節団が激怒しており……!」
「尚食局からの配給が三日も止まっています! 近衛兵たちの士気は低下し、一部では脱走者も……!」
「これは天罰です! あの妖女を早く処刑せねば、国が滅びますぞ!」
視界が、高官たちの激しく上下する喉仏と、口角から飛散する不快な飛沫で埋め尽くされる。
彼らの喚き声が、俺の露出した神経をやすりで削り取るように逆撫でする。
うるさい。
黙れ。
全員、音も立てずに消えろ。
俺は、こめかみの脈動を指先で圧迫し、肺の底から絞り出すように呻いた。
思考の演算回路が、過熱して霧散していく。
林鈴という名の「核」をパージしてから、たった数日。
あの一人の「監査役」というバランサーを失っただけで、千年の歴史を誇る帝国機構は、これほどまでに容易く、物理的な軋みを立てて自壊を始めるものなのか。
卓上に積み上げられた奏上書の山が、死者を弔う不吉な墓標の群れに見える。
どれを優先し、どの不採算部門を切り捨てるべきか。
以前なら、彼女が瞬時に『これは却下、これは保留、これは即決』と、冷徹な手捌きで仕分けていた。
彼女の細い指先が盤上の石を動かすたびに、滞っていた血流が再び脈打ち、国という名の巨大な個体が、ようやく正常な呼吸を始めていたというのに。
(……鈴なら、どうする?)
俺は、脳内の最も深い領域にアーカイブされた彼女の声を再生しようと、必死に耳を澄ませた。
『コスト意識を持ってください、陛下』
『それはロジカルじゃありません』
あの氷点下の冷徹さを湛え、それでいてこの上なく安らかな響き。
だが、聞こえない。
いくら意識の海を潜っても、手応えがあるのは彼女が火刑台の炎に巻かれるという呪いのような幻聴と、己の無力さを嗤う心音だけだ。
玉座の肘掛けを握りしめる掌が、不自然に白く変色していく。
空っぽの隣を見る。
彼女の体温を失った空間は、熱を奪うだけの凍りついた石の塊だ。
寒い。
帝国中の残り火をかき集めたとしても、この脊髄を貫く悪寒を消し去ることは、もはや不可能だった。
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