王の出迎え、あるいは最強のバディ復活
門を抜けた瞬間、網膜を焼いたのは、朱雀大路の果てに沈む溶岩のような残照だった。
その光の渦を背負い、石畳に長い影を落として立っていたのは、一人の男。
李宵。
彼は私を視界に入れた刹那、皇帝としての絶対的な静止を自ら破棄した。
周囲を固める近衛兵の視線や、不文律という名の作法を完全に無視し、私の元へと駆け出そうとする。
「鈴……!」
震える喉から零れ落ちたのは、執着と安堵が凝縮された、重く、熱い音塊。
近づくにつれ、彼の「非公式な疲弊」が露になる。
整えられているはずの赭黄の袍には微かな砂塵が付き、黄金の瞳の下には、私不在の夜を幾度も超えてきた証――濃い隈が刻まれていた。
私の指先が、その熱を求めて不随意に痙攣する。
本能が、彼の胸という名の「聖域」に飛び込めと、脳内に警告を鳴らし続けていた。
けれど。
私は、踏み出しそうになる足を自律神経の制御下に置き、背筋を垂直に固定した。
私の背後には、地獄から帰還し、再起動の合図を待つスペシャリストたちがいる。
そして眼前に広がるのは、腐臭を放ち、機能不全に陥った「不採算部門」。
「……陛下。感動の再会は後回しです」
私は、監獄の石床で研ぎ澄ませた監査役の貌で、彼を真っ向から射抜いた。
「まずは業務復旧が先決です。ゴミの焼却処分、洗濯物の回収ルート再編、食材の緊急調達……やることは山積みです。ロマンスに現を抜かしている暇はありません」
李宵の動きが、物理的にフリーズした。
突き出されたロジックに、駆け寄ろうとした慣性が押し留められる。
数秒の真空地帯。
やがて、彼の肩が小さく上下し始め、肺の底からこみ上げるような振動が空気を震わせた。
「ははは! ……そうか。そうだったな」
彼は自嘲気味に、けれど、この上なく誇らしげに目を細めた。
その視線は、もはや私を「守るべき弱者」としてではなく、唯一対等に背を預けられる「最強の資産」として定義し直していた。
「お前は、そういう女だった。……俺の、世界一有能で、どうしようもなく愛しい監査役だ」
絡み合う視線の温度が、数百度まで跳ね上がる。
今はまだ、物理的な接触という名の報酬は支払わない。
けれど、この「信頼」という名の共有メモリは、どんな抱擁よりも強固に、私たちの魂を同期させていた。
「……よくやった。本当に」
すれ違いざま。
龍脳の香りが、監獄の悪臭を強引に上書きし、彼の低いバリトンが鼓膜を直接揺さぶる。
「だが、俺をここまで待たせた罪は重いぞ。……すべて片付いたら、たっぷりと『追徴課税』を取り立ててやるからな」
その、耳朶を溶かすような粘り気のある囁きに、私の背中を電気的な戦慄が走り抜けた。
私は不敵な弧を唇に刻み、彼を見返した。
「望むところです。……覚悟しておいてください」
私は彼という熱源をあえて突き放し、腐臭漂う後宮へと足を踏み入れた。
さあ、仕事の時間だ。
この国のOSを書き換え、私たちの「安住の地」を物理的に構築するために。
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また明日[19:00]にお会いしましょう。




